券を頂いたので、行って参りました。
最初の方にはペンで書いた素朴な作品が。これを見てぱっと連想したのは、ナスカの土器で、山下清の飾り気の無さは、どこか古代に通じているのかも知れません。「蜂Ⅰ」辺りがそういう雰囲気が一番出ていて、蜂の危険な感じと素朴な造形の取り合わせが良かったです。
十代の作品では「桃畑」が淡い色彩で美しかったです。芸術家には核の様な物が必要ですが、とりあえずは楽しさを画面にそのまま移すのが、山下清の基本の様で、この初期の作品にはそんな美徳が出ていると思います。
「八幡様の鳥居」は一番位に気に入った作品で、細かく千切られた紙が自然に風を表現していて、誰もが経験したことがあるだろう、境内のふーっと吹き抜ける風の体感を蘇らせてくれます。小手先な感じがしない所が素晴らしいです。
「藤」の背後の黒地に点々と色を散らした表現も良かったです。
「金町の魚釣り」を見ている時に気が付いたんですが、山下清の作品は遠くから観るのがとても楽しいと思います。細かい所も良いですが、雄大な風景に感動して、そのスケール感をそのまま絵の中に写そうとしたんじゃないか、ということを一番に感じます。
「パリのモンマルトル」は、そういえばシャガールも描いていたなぁ、と思いつつ観たんですが、人物が蛭子さんの絵のようで、少しシュールでした(笑)
「自画像」も素晴らしい作品で、このくしゃっとした、どんよりした、どこかユーモアがある顔が、山下清が一筋縄では行か無い作家だったことを示しています。所々の作品解説が熱くて、超人的と形容してみたり、巷間のイメージとの差を強調していましたが、差があるであろう事はこの絵一枚で了解出来ます。
展示方法は、見ている所に影がくっきり落ちてしまったり、壁が不安定で、人がぶつかっては揺れていたり(僕もぶつかった)、といった所は改善の余地が有ったかも知れません。
写真も沢山有って、手塚治虫に描いて貰った似顔絵の色紙を持って収まっているものが微笑ましかったです。
所々の本人の話をピックアップした物が面白く、素朴過ぎて、天然の皮肉屋と言ってみたくなるような内容でした。
最後の作品は「東海道五十三次」だったそうで、むべなるかな、といった所です。
山下清の絵を見ていると、本当に風景が好きだったんだな、ということが良く伝わってきます。その事だけでも、北斎・広重の系譜の真の後継者だったといえると思います。
山下作品は褪色の激しさが知られていますが、実際激しく、修復プロジェクトが進んでいるそうです。
一番の有名作の「長岡の花火」は修復が済んだ鮮やかな色彩の、凄みのある作品。大パノラマに脳内に響く炸裂音。暗がり。他の作品と比べても体に響いて来るものがまるで違います。
修復された作品は、観ているとしゃきっとしてきます。これからどんどん修復されて行って、十年、二十年、と経つ内に、山下清の名声はいよいよ高まるに違い有りません。
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