千葉市立美術館 鳥居清長 -江戸のヴィーナス誕生―・後期

#練習用

行って参りました。
以前放送された日曜美術館の清長特集は

海外流出の激しい知られざる名浮世絵師
西洋解剖学の影響
鳥居家や歌麿を巡る人生の軌跡

とスケールと内容を備えた極めて完成度の高い番組で、私も含めて沢山の人が感銘を受けたようです。それに加えてその放送を見た時何か、美術館の空気に良いものを感じたのが千葉まで行く気になる決め手になりました(笑)

最初にわらわら出てきた小判中判は描き込みが凄まじかったですね。状態があまり良くない事もあって初期の作品は総じてそこまで面白くは有りませんでした。修行時代といった感じでしょうか。
ただ、同じ中判でも第四部のものはかなり面白かったです。切り取る風景のセンスが違う感じでした。

初期の作品があらかた終わったところに目録の見本があって、買おうかどうか迷ったんですけど、文章と絵の配置が不合理なように感じて買うのを止めました。もっと巧く解説をつければ、更に大きく図を収録できたと思うんですよね。

だんだん立派になっていって大判が基本になってきます。目当ての一つであった「美南見十二候 九月 いざよう月」は流石に素晴らしかったです。立っている一人と座っている二人の女性がそれぞれ日本情緒と生活を代表していて、対置の妙で耽溺にも明るさにも傾かない素晴らしい世界を作り出しています。
講座で学芸員の方が清長が歌麿に敗れたのではないかという説に否定的な見解を示されていましたが、これほどの絵を描く人の作品の価値が著しく落ちる事など、やっぱり有り得ないのではないでしょうか。

大判錦絵の続き絵で更に風景が入ってくるとやっぱりかなり楽しくなってきます。元が人物画で、それに風景が入ったものなので、渾然一体となっている広重と比べると人がメインで有ることが分かります。
中でも「江の島詣」は巨大な江ノ島と人物の力の均衡が高い所で取れてて良い絵だなと思いました。「仲の町の桜」の華やかさ、艶やかさは画面から溢れんばかりでした。

金太郎の絵が期待していたより面白かったです。剛力を発揮しているのに涼しい顔をしているのがユーモラスでした。余談ですけど「天狗を凧にして揚げる金太郎」で金太郎の隣に居た小鬼はどう見てもスクールランブルの吉田山にしか見えませんでした(笑)

清長にしても肉筆は格別です。「隅田川河畔納涼図」は通る人皆嘆息していました。風の描写、着物の微妙な乱れ具合とそれを正そうとする仕草、それを包む静かな背景。全てが調和して完璧といって良い具合でした。
「駿河町越後屋正月風景図」はスケール感が物凄い絵です。いきなり風水的な解説をしますと大量の気を運ぶ巨大な通りの向こうに最強のパワースポットといえる富士が有る事で天地の気(スカイ・チ、グラウン・チ)が大きく循環し、この絵に力強さと魅力をもたらしているといえます・・・というのは冗談ですけど、そう考えると巧く割り切れる絵でもあります(笑)
展示では照明が浮世絵とはいえちょっと暗い感じで、明るく撮れている印刷物と違う印象が楽しめます。

今展覧会の最も良かったものの一つは三代瀬川菊之丞の二枚です。肉筆画の「三代目瀬川菊之丞の娘道成寺」の方は、引いた姿が綺麗なのに女形特有の男が扮している気持悪さがまるで感じられない不思議な絵でした。もしかして昔の女形にはそういう人が多かったのかもしれません。以前見た豊国の「三代目中村歌右衛門」と同等の感銘を受けました。
版画の「三代目瀬川菊之丞の石橋」は華麗にして絢爛豪華。躍動感が溢れているのに体軸の確りした様は凄まじいの一言でした。きっと清長と三代瀬川菊之丞は相当親しい間柄だったのではないでしょうか。

本当に凄まじい規模の展覧会で、解説を聞いていた一時間を引いても丸々4時間は見ていました。チャンスを目一杯生かそうとしてゆっくり見たのはありますけど(笑)
非常に量の多い展覧会で、半分まで終わったところで「えっ、まだ半分なの!?」と初老の男性が叫んで居たのが印象的でした(笑)感動とは別に年を召されれば体力的に辛いのは理解できます。

展示方法について言うと、普通の版画でショーケースに入っている作品は何だろう、と思ったんですよね。ぱっと見て周囲の作品と比べて格段に秀でている所も有りませんし・・・と思ったら、全て国立博物館から借りてきたものみたいなんですよね。ボストン美術館から借りてきたものもシカゴ美術館から借りてきたものも普通に額に飾って展示していますし、海外では有名な「ムンクの叫び」なんかがただ額に入れて掛けて有っただけであったために、盗まれたり戻ってきたり盗まれたり・・・と繰り返しているのは有名な話です。それと比較すると、こちらはまだ肉筆画なら分かりますけど版画ですから・・・国立博物館の保存を責務とする使命は分かりますが、ちょっと恥ずかしい(*ノノ)話です。国立博物館は国立博物館の本館の様な組織なのかもしれません。

今回は殆ど版画だということもあって、彫師刷り師の超絶技巧が目立ちました。これ凄まじいですね。細やかな所も凄く均一に彫られているのが細か~く見ると分かりますし、色の矩を超えない事も正確で、あれだけ複雑な過程を踏んで製作されていることを感じさせません。
浮世絵は版元が「ここら辺はこういう感じにしといて」と彫師に指示を出すだけの所が結構有るそうで、絵師と彫氏の合作で有るという要素が極めて強いそうです。ここら辺の感じは彫師の感覚かなーとか想像しながら見るのもまた面白かったです。
とても素晴らしい展覧会で企画力の凄さを感じました。貴重といわれるコレクションを見ることが出来た事は、絵のもつ固有の価値を享受出来た事と合わせて極めて幸甚な事です。更に将来色々見るにつけて今回の展覧会の有り難味がじわじわと沁みて感じられる事も有るかもしれません。有難うございました。

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