~日本の心をうたう~ 宇野功芳 アンサンブルフィオレッティ 三月二十一日神奈川県民ホール小ホール

#音楽レビュー

行って参りました。
無事着いたんですが、当日券の売り場で渡されたのは、チケットでは無く整理券。券が取れるか気になりつつも、まずは腹ごしらえを。
昼食は山下公園で。昨年は二月だったので、寒風吹きすさぶ中、食べたのですが、今年は丁度良い気温です。素晴らしい眺望の公園で、ユリカモメが飛んでいて楽しかったので、今度じっくり散策しに行くかもしれません。
心配されたチケットも何とか手に入れて、運良く、良い席で聴くことが出来ました(笑)

身のこなしも軽く、マエストロ・宇野が入って来て一礼。丁寧なお辞儀で、思わず朝比奈隆さんのお辞儀を思い出しました。似ているけど、朝比奈さんに比べるとふんわりとしたお辞儀ですね。
会場は満杯で、まさにはちきれんばかり。マイクが無かった様なのが少し気になりましたが、録音しなかったとしたら、ちょっと勿体無いですよね。

最初の「(1)小学唱歌」は、どのように歌うのかと思えば、清純な透明さで一貫していて、総じてモーツァルトの様でした。
特に「虫の声」は美しい、対位法の伽藍を思い出させるような出来で、この、予想の上を行く宇野先生の意外性は素晴らしいです。
「海」は高音の有機的なハーモニーが、宇野先生が常用する天国的なるフレーズの、意味を教えてくれます。ファンの方で、宇野先生の好むフレーズの感じがちょっと掴めないな、というような人がいらっしゃったら、コンサートにいらっしゃれば、疑問が氷解する、ということがあるかもしれません。結局、音楽は音楽でしか伝えられないのかもしれませんね。

小学校唱歌の最後を飾るのは「あめふり」で、溌剌として切れるリズム。音楽も指揮姿も愉悦の極みで、DVDで出たら、一週間に一度位、観ると思います(笑)岡島雅興さんという方の編曲も、公演全体を通して光っていました。ぴっちぴっちちゃっぷちゃっぷらんらんらん♪アンケートのもう一回やって貰いたい曲に書いておきました。

ここまでが前奏曲的で、次の「(2)3つのブルース」は深い情緒の世界。
「別れのブルース」は、一音一音に込められたドラマが凄く、最弱音の指揮の所作が格好良かったです。特にこの曲以降、今回の演奏会で目立ったのは、ピアノに対する指揮の本格的な事です。お陰で間奏中も同じ世界が続き、より色彩の濃さを増してゆくのです。「雨のブルース」でですとか、真剣な遣り取りに緊張感がありました。

「(3)空の戦時歌謡」は戦時中の世界へ。「航空日本の歌」は澄み切った演奏が歌詞と落差があって、高い青空に散っていった命を思わずにはいられません。
「燃ゆる大空」は指揮の上下にあわせて、音楽が旋回し、細かく自在に変化します。原曲に親しんでいないのでなんともいえませんが、こういう曲からここまで内容を引き出せるのは、普通ではないのではないでしょうか。
それにしても、戦時下だけあって御国云々とかの歌詞が多く、折角だから片山杜秀さんと組んで、橋本國彦の曲を復刻したらいいんじゃないかとも思いましたが、よくよく考えれば、意外と向いていないかもしれません。宇野先生はこれで結構、女性的な要素を持っている人だと思いますからね。

「(4)戦後の歌謡曲」は「東京の花売り娘」から。右に左にたなびく旋律に、花売り娘の雰囲気が表現されていたと思います。宇野先生は左に右にと足を踏み出す指揮で笑いを取っていましたけど、78歳でお元気なものです。指揮者は長寿職業だわ、健康で居られるはで良いですねぇ(笑)
「イヨマンテの夜」は一番お若いと思われる、独唱の方の透き通った歌声がお見事。
「長崎の鐘」も凄い演奏で、ディミヌエンドというよりフォルテピアノというのでしょうか。サビの部分のいきなり弱音に切り替える演奏が決まっていて、音楽の喜びと、鎮魂の厳粛を感じさせずにはいられませんでした。

華やかさに悲しさを感じさせるような、得意の「すみれの花咲く頃」で始まった「(5)外国人が作った日本歌謡曲」は享楽的な、世俗の楽しさを感じさせるような曲が多かったです。
「ウスクダラ」は台詞付きの面白い曲で、遅れてきたスケルツォ。
最後の「ラスト・ワルツ」は夕映えの旋律と共に、「せめてもう一度踊りたい」という歌詞が胸を突きます。
そういえば宮崎駿監督が、ポニョで「もう一度だけ踊りたい」と作詞していましたけど、両巨匠は似た所があるかもしれません。宮崎監督はポニョの製作の時に、ある人が描いたカモメが常套的に簡略化されていたのに怒っていましたけど、こういう人格が籠っていないような表現を嫌う所は近いと思います。表現する人としての、基本がとても確りしている、二人なのだと思います。

プログラムが終了して、アンコールの前にマイクパフォーマンス・・・なんですが、今回は逸脱の無い喋りで、推測するに、喋る内容を事前にきっちり考えて話されたのは、初めてなのではないかと思います(笑)次曲の存在のあやうさ故でしょうか。
「明治節」は戦前に明治天皇の誕生日(今の文化の日)に歌われていた、天皇を讃える歌で、今ではまず聴けない曲なのだそうです(笑)後の軍歌とかとは違う、清澄な曲で、天皇制が社会に最も有益に機能していた時代の、ナイーヴな心情を感じます。貴重な機会を頂きました。
アンコールのもう一曲は「東京ラプソディ」で、愉しさの中、全曲が終了。
帰る時におばあさんが、「ああ、終わっちゃった」といっていたのが印象的でした。美しさに溢れていて、多くの人の糧になっている演奏会なのだな、と改めて思わされながら、私も今年の分が終了してしまった惜しさを感じつつ、会場を後にするのでした。

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