サントリーホール 大ホール 日本フィルハーモニー交響楽団第679回定期演奏会 指揮ピエタリ・インキネン ヴァイオリン:庄司紗矢香 2016年4月22日(金)その2

#音楽レビュー

休憩を挟んで次は

ホルスト: 組曲『惑星』

これはかなり楽しみにしていたもので、実演で聴いたらいかにもシンフォニックに聴こえそう。女声合唱を伴う特殊な編成であるため有名な割にはあまりコンサートで取り上げられないのだとのこと。

科学的な惑星ではなく、占星術に基づいて作られたことでも有名な曲。生きている時期がやや被る小説家のヴィクトル・ユーゴーも降霊術に嵌ったあげく、傑作をつくりだしたことで知られていますが、結構こういうのは多い印象。

凝ったものの怪しさはともかくとして、そこから引き出される神秘的なインスピレーションは人類に普遍的なものであって本物なのだということだと思う。

そういう点からいうと日本史では双葉山や秋山真之が怪しげな宗教に凝っていたことがスキャンダラスに語られますが、彼らが持っていた普遍的な神秘性(インスピレーション)がたまたまそういったものと結合してしまっただけだと捉えることもできます。
特に破壊活動をしたり周りに迷惑をかけたわけでもないし、私としてはそんなにスキャンダラスなことではなかったのではないかと思っています。

最初の「火星」は戦いの神を表した激しい曲。5拍子の珍しい曲であることでも知られていて、映画とかで5拍子の激しい曲を聴くと影響を受けているのかなと思うことが多いですね。

火星に限らずなんとなくほかで聴いたことがあるような部分が多く、現代の商業音楽に対する影響の強い組曲なのではないですかね。

指揮はなんとなくやや雑然としているように感じるところもありますけど、こういう曲でもあるのだと思います。

次の「金星」は実に神秘的な曲。真っ暗な宇宙空間の果てしなさを感じさせる素晴らしい曲ですが、演奏はもっとピアニッシモに神秘性が込められたかも。
「水星」は俊敏な曲想ですが、もっとメリハリと沈潜を効かせて俊敏さを演出できたと思います。

「木星」は日本では平原綾香の「ジュピター」で有名な曲。あの頃にホルストに著作権が切れたらしく、ただになったんですね。

「ジュピター」とは神の中の王ゼウスのことであり、実に雄大な曲想。

中間部のあの有名な旋律のユニゾンが、実演で聴くと、でんっと木星が宇宙に浮かぶ姿を想起させて、極めて立体的な感動があります。

木管のささやきは宇宙的。

「土星」は悪魔的な曲想ですが、これももっと重々しくやって良かったと思います。

もっとやれそうなところの多い演奏でしたが、普通の範囲で曲としては良く鳴っている演奏ではありました。

「天王星」は「魔術師」という副題で、勢いの良い疾風怒濤の曲想。ひたすら透明な空っ風が吹きすさぶようです。

最果ての「海王星」は女声合唱を伴う、幽冥の境を表現したような曲。人が親しめる太陽系もここでおしまい。合唱の声が向かう先は全て宇宙に吸収されてどこに尽きるかもわからない、、、、。

全体を見渡せば鉄琴やチェレスタといった打楽器・特殊楽器が生き生きとしている組曲で、オーケストラ全体が喜びに満ちているよう。

弦の弱音は宇宙的ですし、ユニゾンは惑星的。鉄琴やチェレスタは星のささやきを思わせますし、木管も様々なエネルギーが交錯する宇宙環境を思わせます。女性合唱は最果ての神秘を思わせます。
オーケストラという「楽器」がそもそも持ち合わせている宇宙性を存分に開放してやったような曲だと思いました。

良い曲ですね。太陽系に乾杯!

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