国立新美術館開館5周年 リヒテンシュタイン 華麗なる侯爵家の秘宝 その2

#その他芸術、アート

行って参りました。

最初は17世紀の堅調な絵で、神話と大目の露出の取り合わせのものが多かったです。

フィリッポ・パローディの「美徳の寓意」は胸に太陽が描かれていて、位置的にだいたいどんぴしゃということでいえば、ヨガのチャクラに当るような文化があったのでしょうか。

作者不詳、フィレンツェ産の「貴石象嵌のテーブルクロス」は黒い基調に螺鈿の美意識を感じさせる作品で、作者不詳、パリ産の「書き物机(マゼラン机)」の前でもおばさまがたが、螺鈿みたい、と噂をしていました。当時大量の螺鈿が西洋に渡っているはずで、直接的な影響は固いと思います。同時代のカラヴァッジョ、レンブラントも相当影響があった可能性が高いと思うのですけど、あんまり聞かない話です。
レンブラントは和紙を使った作品が「たばこと塩の博物館」で展示されていました。

作者不詳、アウクスブルク産の「キャビネット」は左右対称のつくりで、西洋らしさを感じます。

前半はほとんど名前を聞かない作家のものが多く、有名どころではほとんど唯一ベルニーニの意匠で作った装飾があり、そこでベルニーニと呟いている人がいました。

磁器に装飾をつけたものもあって、これは伊万里ですね。

フランチェスコ・ソリメーラの「モーセの発見」は川に流されたモーセを発見した所ですが、白川静が良く引かれる周の始祖伝説(字統 棄の項参照)と同じです。この前のNHKの香山リカさんの子育て特集でも、一度棄てて拾ってもらう日本の風習をやっていましたけど、洋の東西を問わずにあった習俗なのでしょうね。

だんだん後半に入ると良い絵が増えてきて、中核コレクションはルーベンス。「ひげのある男」は同展覧会の他の作家の肖像画と較べると、のっぺりしていないという意味で綺麗ではなく、多彩で細やかな所を感じさせます。「果物籠を持つサキュロスと召使いの娘」など青緑がかっているのも特徴。

何を描いても天上からひらひら降りてきたような感覚を纏っているのも特徴で、パンフレットに刷られている「クララ・セレーナ・ルーベンスの肖像」の髪の毛などにもそういった流れを感じます。このモデルの子は12歳で夭折してしまったとのこと。

この日一番よかった絵の一つが「マルスとレア・シルヴィア」で、マルスという男がレア・シルヴィアというお嫁さんをみつけて駆け寄っていく所ですが、その動きは躍動感があります。
レア・シルヴィアのぽーっとした表情も色気があり、横で燃えている火は心の内を表しているのでしょう。光がさして天使が祝福し、布のひらひらした感じも天上的。マルスの目に邪念が感じられないことも、観賞しやすくしています。

「メレアグロスとアタランテ。あるいはカリュドンの森(下絵)」も独特の浮遊感と流れ、躍動感を感じさせます。

あとなぜか「占いの結果を問うデキウス・ムス」など男性のふくらはぎが太すぎるのが特徴。ふくらはぎが太いのが日本人の特徴と日本の陸上界ではいいますが、これも相当太いです。鳥居派のみみず描きの様な意味なのでしょうか。

美術館の成り立ちを紹介するVTRによると「侯爵は美術の目利きであれ」「美術品を集めろ」という家訓があるとのこと。連想したのは日本の大名間での茶道の興隆で、茶道というのは鑑賞者の芸術であって、目利きを求められるんですよね。そういったことが山上宗二記のウィキペディアにも書いていますし、(http://ja.wikipedia.org/wiki/%E5%B1%B1%E4%B8%8A%E5%AE%97%E4%BA%8C%E8%A8%98)骨董商も茶道具を本流として大事にするんですよね。これは彼ら自身が茶人そのものであったことの名残なのではないかと思います。

リヒテンシュタイン侯国は美術品3万点を所蔵しているらしく、これは英国王室に次ぐ規模であるとのこと。日本の大名家にも共通しますが、文化で屹立する、といった気概を感じるところで、これは現代日本も大いに参考にするべきところでしょう。

工芸ではヨアヒム・フリースの「ぜんまい仕掛けの酒器(牡鹿に乗るディアナ)」が極めて精緻。しかしこれは酒器で、宴会で形が複雑なのでこぼさないの飲むのが難しかった、といった利用のされ方をしていたらしく、微妙に退廃的な雰囲気も。日本は酒席を文化に高めるのが上手かったですが、西洋のものをみているとそういう所では物足りなさを感じることが多いですね。

最後の章の「名画ギャラリー」では名作が目白押し。

ヤン・ブリューゲルの「若きトビアスのいる風景」は清凉とした奥行きのある絵で、細かく書き込まれた絵に青みが柔らかさを与えています。

レンブラントの「キューピットとシャボン玉」は愛の儚さを表しているらしく、劇的な明暗が寓意を強調しています。

ベルクヘイデの「ハールレムのマルク広場、市庁舎のある眺め」は高所から描いた、当時の町の雰囲気が非常に良く出た感じの、とても素直な絵。

カナレット(本名アントニオ・カナル)の絵はイギリス人の大陸がえりのお土産に良く求められたらしく、空気遠近法が効いた「ヴェネツィアのサン・マルコ広場、鐘楼のある眺め」はイギリスの水彩画を思わせます。

パニーニの「古代ローマの傑出した遺跡と彫刻のある奇想」は古代ローマの遺跡をひたすら一枚に集めた絵で当時良く描かれていたとのこと。浮世絵にもこういった絵を模した物がありましたよね。

ルブランの「虹の神イリスとしてのカロリーネ・リヒテンシュタイン公爵夫人」は公爵夫人を疑神化したものですが、はだしで描かれていて周囲の人はショックを受けたとのこと。

アイエツの「復讐の誓い」は仮面を外した女性がキツイにらみを利かせるもので、そのわかりやすい劇的な効果はハリウッド的。表面的なものも感じつつも、女性の美貌と大胆なドレスの魅力は相当なもの。

アメリングの「夢に浸って」はしっとりとした良い肖像画で、澄んだ意味での宗教的な気品すら感じさせます。

特に後半は観ていて非常に楽しい絵が多く、出口を通り抜けるのに、かなり思い切った気持ちが必要でした。スイスとオーストリアの国境にある御伽噺に出てきそうな国で、高い文化力を感じました。ありがとうございました。

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