券を頂いたので、行って参りました。
画面の細密さが特徴の人ですけど、最近はそういう人が多いんですよね。ミニ若冲現象というそうですけど、もちろん人にもよりますが、伝える物が少ないので細密に描いている、という面はあると思います。世代は全然違いますけど、熊田さんはどうなのかな、とちらっと思ったりしました(笑)
というわけで、最初に置いてあったのは「花まつりのお客さま」。花が咲き誇っていて、昆虫が集まってきている絵にそういう名前が付いています。絵本以前に絵自体が絵本っぽい感じです。花や昆虫が本当に好きなんだなということが伝わってきて、それ以外のことはどうでも良くなってしまいます(笑)
昔の某総理は「警戒心を解いてしまう人」と形容されていたそうですが、そういう形容はこういう絵師のために取っておきたい所です。
細密も特徴ですけど、印象的なのは空ですね。虫の視点から見た空の広さが、実に良く描かれています。夜になると星空になるわけですが、星の描き方が蕪村の雪みたいで、これも良かったです。
19世紀のヨーロッパの銅版画を、ひたすら繊細にしたような印象も受けます。
細かいから描ける物があるわけで「春の花園」は植物の葉脈の美しさが印象的でした。集中力に脱帽ですけど、あの朗らかな感じで淡々と描いているに違いありません(笑)
カラフルな絵ですけど、その中で印象に残ったのは、うっそうとした緑。「野菜の花」が生命力にあふれていましたし、「どくだみ」も地味な植物から独特の味を引き出していて、面目躍如とした感じがありました。
他には「一月やぶこうじ」の一点紅い実や「五月つりがねにんじん」の青い花が印象に残りました。
所々に格言が張られていて「七十歳を過ぎてから対象の深い所がみえてくるようになった」といったような北斎ばりのものもありました。
「天敵」は恐竜のような蛙が迫力がありました。やはり視点が虫そのものなのが、素晴らしい所です。
一点もご自分の画風から逸れられたものがなく、伊福部昭さん並みの自己模倣振りだなと思いました(笑)発言とあわせて、何か道の様なものを感じます。
「森のジュースに集まる虫たち」は虫が沢山集まって、豪華絢爛。やはり男子としてはカブトムシが好きでしょうか(笑)ホームページに大きく出ているのに今気が付いたんですが、やっぱり映える絵です。
「水にすむ生き物」は魚の絵で、こぶなのようなのが可愛らしかったです。
最後の部屋は「製作者の小部屋」。
熱中夜話のマイケルの回もそうでしたけど、生前に作られた部屋なので、しんみりとした感じがまったく無かったのが良かったです。暗さの似合わない人ですから、開催中まで生きられたことは本当に良かったと思います。
格言が沢山張られていたので、とりあえず列挙。
「見て見つめて見きわめて私は心の目で自然を描きたい」
「虫は私であり私は虫である」
「ものを良く見て見きわめてから描く」
「自然は美しいから美しいのではなく愛するからこそ美しいのだ」
とのことで、ものをよく観察して描く事の高雅さ、を感じさせてくれる人です。
絵と共に絵本に添えられた植物や昆虫の説明も素晴らしかったです。最後の部屋ではずっと置かれていた本を読んでいて、これも楽しかったです。「すばらしい植物画家になることより虫や花たちの言葉が分かる画家になりたかったのです」という熊田さんの言葉通りの展覧会で、自然が大好きな人の総合的な催し物、といった感じでした。
幸福感に満ち溢れた展覧会でした。とてもよかったので、読んでくださった方もぜひぜひ。
ありがとうございました。ご冥福をお祈りいたします。
コメント