ムラヴィンスキー グラズノフ・交響曲第5番 1979年日本ライヴ

#音楽レビュー

このまえ宇野先生がミサ・ソレムニスは絶対に実演で聴かなくては駄目だ、と仰っていましたけど、実演の凄さというのはやっぱりありますよね。
来日公演シリーズの中の録音が良くないものは、実演より音が硬めに聴こえるのではないかという気がします。

グラズノフは昔に近・現代の作曲家を纏めて聴いた時に、色々聴いたんですが、ほぼ忘れました(^_^:)たしか、骨太な構造だったような気がします。

ムラヴィンスキーはグラズノフをとても尊敬していたそうで、演奏の集中力は来日公演シリーズの中でも随一のものを感じます。アタックも心なしかいつもより柔らかめで、慈しむような雰囲気すらあります。

基本的に鷹揚ともいえそうな、楽しさが基本の作曲家のようです。
クレッシェンドして、フォルテに到達したかと思うと、デクレッシェンドして行く金管が、豊かで穏やかです。山下公園で観た海の向こうを思い出させるようです。
9:00辺りはワルキューレの騎行のようですが、ワーグナーと比べると実に穏健。弟子のショスタコーヴィチとは対照的です。

第2楽章の2:00位からの木管なんて、ラピュタのパズーの角笛を思い出すくらいののどかさ。
第3楽章は高いところから遅いテンポで下降・上昇してゆくヴァイオリンが美しく、ムラヴィンスキーはこういう表現が本当に上手いです。
7:30の辺りとか、映画やゲームの感動的な回想シーンとかで使ったら、滅茶苦茶映えると思います。

第4楽章はシンバルがリズムを刻み、ブラスバンドが大活躍する楽しい楽章。サーカスにきたようなうきうきした気分になります。
人によっては気恥ずかしくなるくらいかな、と思ったんですけど、久石嬢さんが、恥ずかしいということ自体が見下ろしていようだ、といっていたのを思い出して、関係ないですけど気を引き締め直しました(笑)
ムラヴィンスキーの真面目さが、サーカスを最強の雑技に高めています。賑やかな、誇張したくなりそうな所を謹厳にやるのが良いです。

ムラヴィンスキーはドイツ物が天下一品ですけど、やはり古典的な様式感を持った指揮者で、だからグラズノフが好きだったのかもしれませんね。グラズノフはフランク的な定着の仕方をするのかもしれません。

チャイコフスキーの「眠りの森の美女」の「序曲」は、3:00辺りからずっと続く弦の刻みに、シベリウスの様な味があるのが、玲瓏としたらしさです。
4:30辺りの夜が明ける直前の静寂のような、管のピアニッシモが良いです。
アタックが強力な指揮者なら他にもたくさんいるかも知れませんが、こういう所がムラヴィンスキーのかけがえの無い所です。

「ワルツ」は導入が高速。シャンデリアが煌いたまま、人は線を残して止まっているようです。
すぱすぱ切り上げていくリズムが特徴的で、それでなお、ふわっとした舞踏の印象がちゃんとあるところが良いです。

グラズノフの懐の深い音楽と、ムラヴィンスキーの的確さが合わさった、良い録音です。名シェフが作った、パエリアみたいな感じでしょうか。

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