アストル・ピアソラ LIVE IN TOKYO 1982

#その他音楽

これは楽しいCDです。しかも非常に画期的なCDなのではないでしょうか。
最初の「Biyuya」からしていきなり凄い演奏です。この不可測性と勢いをや何に例えん。拍手の聴衆にも何処か昔日の日本人の律儀さを感じます(笑)表情はくるくる変わりますけど、分裂もしていなければ暗すぎる感じもしないので、私としては安心して音楽を聴くことが出来ます(笑)

ライナーノーツにこの公演に臨む際のピアソラの気合が尋常ではなかった事が記されていますけど、至る所のニュアンスが実に繊細で力強く、ピアソラにしても格別の演奏の様な気がします。「AAの悲しみ」のしっとりした感じは良いですね。クラシックのアダージョとは違う細切れに呟く様な雰囲気が好きです。最後の調性の崩れた様な旋律も良いさびになっていると思います。聴衆の拍手は最早待ちきれないと言った感じです。しかしピアソラは真面目な人ですねぇ。一点一画を疎かにしない表現だと思います。

「Adios Nonino」は一転ジャズの様な曲です。微妙に寂れた夜景のような雰囲気が最高です。曲の途中のてんぷらが揚がっているような音は拍手なんでしょうか?5:00頃には更に転じてこれでもかとロマンマッチクなメロディが流れ出します。父親へのレクイエムなんだそうですけど、そういった特別なものが垣間見える良い曲です。

diskの二枚目の中盤からは歌曲で、藤沢嵐子さんが登場します。藤沢嵐子さんの声は非常にどっしりしていますね。ピアソラの才能に左右に揺すぶられて来ましたけど、歌を聴いていたら隨分落ち着いてきました(笑)色々考えられたプログラムなんですねぇ(多分)それにしても、どんなに情熱的歌われても自分の心が全く動揺しないのは驚きです。平凡な人なのではなく静的な要素の非常に強い演奏家なのだと思います。

最後の「ブレノスアイレスの夏」やっぱり一番ピアソラらしい感じがします。今回演奏された諸曲の中では一番単純な位ですが、ピアソラが表現したい事が端的に入っていると思います。やはりそれはこの汗臭いともアンニュイとも言えそうなブレノスアイレスの空気感と、そこに生まれつつある新しい音楽の息吹きなのでしょう。

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