辿り着く迄かなり苦労しました。新宿から初台に行くのが難儀しました。京王線ってどこでしたっけ?とぐるぐる廻ってやっと辿り着いたんですが、これまた初台行きの各駅停車の所在が分からず、30分位ホームを登ったり下ったりしていました。これだ!と電車に乗り込んだは良いんですけど、あえなく急行で結局笹塚まで行ってそこから初台に引き返しました。
以前にのだめ関連グッズの広告の横にこれも読んで見よう、といった感じで宇野功芳先生の名曲名盤総集版の広告が飾ってあって、場違いだなぁ、と思ったことが有りました(笑)おしゃれなイタ飯屋さんを探している人に、奥まった所に有る割烹料亭を紹介しているようなものです(良い悪いじゃなくて質の違い)・・・とはいえ、もしかしたらそちら方面からお客が幾らかは付いたのではないでしょうか。宇野先生のコンサートに行き始めてもう6年ちょっとになりますが妙齢の女性の数が今まででダントツに多かったのに驚きました。昔はおじさんとオタッキーな若者(自分は除く)ばかりだったというのに!なんと光彩陸離とした会場だろうか!宮城さんや都響のファンかもしれませんけど(その筋は濃厚の様である)
一番最初に去年も来た人、ということで手を上げてアンケートを取っていましたが、まぁ、殆どですね(笑)大体がリピーターということですが、当たり前といえば当たり前です。ディズニーランドよりずっと楽しいですからね(個人的に)。お客さんはとても多くて、これだけ席が埋まっているクラシックの演奏会を見るのは久しぶりです(大体八割くらい)。多分朝比奈隆さんの演奏会の時に次ぐ位ですね。都響の人もやり甲斐が有ったのではないかと推察します。
プレトークが非常に冴えていましたね。朝岡さんっていう人は本当に司会が上手いです。プロはみんなあんな感じなのか、とも思いましたけど、それにしても上手いと思います。てきぱきしてて、いわば素人の2人相手に良いテンポを生み出していました。お得だったといいますか、宇野先生の有名な朝シャン発言が飛び出して会場が爆笑していました(笑)名曲名盤総集版でも英雄の解説の所で使われている表現ですが、英雄だと特にこういう事が気になるのかもしれませんね。第一楽章の第一主題からして既にふにゃけて居たり弾いているだけの味気の無いものが本当に多いですから。
英雄でベートーヴェンがモーツァルトを大きく引き離した、これを聴いたらモーツァルトは自殺してしまうのではないか、とも言っていましたけど流石にリップサービスではないでしょうか(笑)僕はベートーヴェンとモーツァルトならモーツァルト寄りの人間なんですが、宇野先生は逆なのかもしれません。
宇野先生の英雄はで出しは相変わらずクナッパーツブッシュのようですけど、和音を二つ続けた後のメロディの流れるタイミングはクナより早いですね。しかしこの表現は宇野先生の内より湧き上がる芸術的衝動から生まれた必然なのでしょうか?(笑)そうだろうと思っていたんですが、帰りのタワーレコードで立ち読みした中野雄さんの本での対談で、結構読み手を意識して良い悪いを誇張して書く事が多いと語っていましたから、これも掴みはOK的な宇野先生の良い意味での芸人的サービス精神の発露なのかもしれません。
今回の演奏の特徴は何時もと同じ感じなのにどこか纏って聴こえる所ですね。新星日響盤はやっぱり破綻気味だと思うし、サクラ管は流石に崩れていますが、今回は何処か奇跡的にも一般的な意味で商品として通用しそうな感じがしました。
都響は実に良く付いて行っていて、プロの執念の凄さの感じたのはザン、ザン、と弦が刻みながらディミヌエンドをかけて消えていく所での音が見事に合っていた事でした!!!!凄まじいテンポの撓みと呼吸の深さで何時もちょっとばらつく物なのですが、今回は完璧に揃っていました。
それも驚きましたけど宇野先生の元気な事には更に驚かされます。一楽章のコーダではぴょんぴょん跳ねていました!背筋が伸びて矍鑠としているので、お尻振り振りにならなかったのも流石です。
最高だったのが二楽章です。申し訳ないけどやはり去年の宮城さんは明らかに平凡にしか聴こえない、と思わせるほどのインパクトが有りました。やっぱり声楽の人だけあって弦が歌っているんですよね。ffとかfとかpとか言ってみれば階段的に強弱記号が有りますけど、それを全てなだらかにして弱音から強音まで自在に凄く幅広く使って演奏していました。正に咽ぶ様で、聴いていて胸の奥から何かがうっと出て来るような感じがしました。弱音のニュアンスは最高ですし、館内で龍が舞っている様な演奏といえましょう。第三楽章。特に第四楽章は宣言していた「ベートヴェンの野蛮さ」がこれでもかと出ていて、踏みしめる様に進む音楽は音もリズムも汚かった奇麗事ではない実演向きの迫力が有りました。アッチラ大王の進軍の様だ、というのは某作家が使う表現ですがまさにぴったりです。しかしこの曲の終結部は何時聴いても大袈裟で笑ってしまいます。歌舞伎の見得を更に念押しした感じですが、宇野先生の表現で野蛮さが倍加していました(笑)
宇野先生の英雄は大体60分だったという事ですが、非常に短く感じた事に驚きました。個性的だはプロオケはやっぱり上手いはで相当良い演奏でした。
再びプレトークでとても面白かったんですけど、昨年あったワルターの解釈の再現であるとかが無かったのは少し残念でした。宇野先生は如何にブラームスやシューマンが暗くて嫌いかという事を中心に語って居ました(笑)2人の音楽に対する感性が表裏を成す、という話をしている時に、宇野先生が僕が表です、とすかさず言って再び爆笑を誘っていましたが、まぁ、ブラームスファンはちょっと引いた裏が好きだから良いのです(笑)
指揮による違いをレクチャーする、ということでハンガリー舞曲第五番はまずは宮城さんの指揮ですけど、相変わらず普通です。一方宇野先生のハンガリー舞曲第五番はテンポの扱い方が余りにも極端で、聴いていて無意識に「わざとでしょ(笑)」と頭の中で突っ込んでいました。ブラームスを余り好まない宇野先生にとって、クナにおけるブラームスと扱いは同じなのかもしれません。いや滅茶苦茶面白かったし、宮城さんの指揮と比べても自然に聴けてしまう所が不思議でした。
個人的に感じた会場の雰囲気ですけど、宮城さんに面白い事をやらなければいけない、といったプレッシャーがかかっているような雰囲気だったのが面白かったです(笑)日本は平均的で有るべきというプレッシャーが社会の至る所に有りますが、個性的な人間が居て力を発揮していると、周りにも個性的でなければいけないという逆のプレッシャーが生まれるように思いました。局所的にこういう個性が優位な空間を積み上げていくことで、社会全体もより進歩していくんでしょうねぇ。とぶつぶつ考えていました(笑)
それにしても宮城さんってサンクトペテルブルグフィルを振った事が有るんですね。それは凄い。とはいえ宮城さんはやっぱり平凡というか・・・アマチュア指揮者をやっている甲斐の無い人といった印象を受けます。下手なプロといった趣で、やっぱり普通の人だということでしょうか・・・。
とはいえ音楽の好み自体は宮城さんの方がずっと近いです。宮城さんの指揮は普通なんですが、やっぱりブラームスの好きな人の音楽で、弦の豊かな様で寂寥感を含んだ歌い方はぴったり波長の合う感じでした。うんうん、それですよねぇ、と一人で脳内で呟いていました。二楽章の消え入りそうな縮こまり方とかもかなり良かったです。三楽章は強弱の付け方が中々でした。四楽章はかなりがっしりした曲として演奏しましたが、私の最新研究に拠ると(ただの直感)もうちょっと掴み所の無い様に演奏するのが良いと思うんですよね。とはいえやはり普通で立派な音楽だったといえましょう。
終演後は宇野先生のサイン会が有って、ブログのキーワードにさせて貰っている事ですし、丁度買いたい合唱のCDも有ったので折角だからサインして貰いました。3000円は滅茶苦茶痛いですけど(笑)人生史上で人からサインを貰ったのは初めてで、宇野先生からは直接的にも叩き台としても莫大な影響を受けているので妥当な所といえます・・・と思ったんですけど、以前に伊福部昭さんに貰える機会が有ったので、並んで貰って置けば良かったと思いました(笑)感想を言ったら、そう、と一言言っていましたけど、あれだけ賛否を産む文章を書く人なのに柔和な雰囲気、声をしているのが宇野先生の美徳だなぁ、と改めて感心しました。
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