行って参りました。最初は小ホールでの映画「大坂城物語」です。上映前に係りの方がサウンドトラックの宣伝を紙に書いて掲げたので、会場から笑いがこぼれていました。伊福部昭音楽祭は手作りの音楽祭なんだ、ということを象徴していたと思います(笑)
「大坂城物語」は三船敏郎が主演で予算も使いまくっている感じなのに、B級っぽい所が良いです。庶民に本当に近しい娯楽だったということなのではないでしょうか。ドタバタの立ち回りシーンが何回か有って、その度に投げやり気味にシンフォニア・タプカーラの第一楽章(に手を加えられたもの)が流れるのが笑いました。少林サッカーでテーマ曲が流れると噴出してしまう人もいらっしゃるかと思いますが、それに準ずる使い方だったと思います(笑)
霧隠才蔵が出てきたんですけど、往来でいきなり「俺は霧隠才蔵だ」と極めて簡潔に自己紹介していました。
俺は霧隠才蔵だ―――――たった一言で全てが伝わる
最後の方で、鉄砲を積み込んだ荷車を馬車風に牽きながら、大坂城へ向けて関東軍の包囲の中を突破するシーンが有ったんですが、そこまでして西部劇風にするところが天晴れです(笑)
結局主人公の茂平は二百石扶持に出世するので、無責任男系の物語なのかと思えば、主人公は扶持を投げ出して何処かに去るのでした(完)
昼のおにぎりは近くに在ると地図に有った神社で食べる予定だったんですが、「ここは公園では有りません」との立て札が有り、なんとなく気兼ねして他を探しました。都心は遊んでいる土地が少なくて苦慮したんですが、私有地と私有地の間を区切る低いコンクリの壁を発見!ここに座ればどちらの家人からも注意されまい、と言う訳でもないのですが腰を落ち着けました。実際どちらのビルからも人がたまに出てくるのですが、大丈夫でした。まぁ、大人しく食事を食べる位ですからね。平和に食べていたんですけど、すると犬が散歩させられていたんですが、こっちに向かって突進してくるんですよね。私はえさをあげに来たわけではありません。飼い主の人は強い抵抗に遭いながらも引っ張っていきました。
午後はまずはシンポジウムからです。伊福部先生と関わりの深い各界の方々の話が聞けました。
世界の映画音楽と比してどの辺りが独創的なのか、という事を井上さんが述べたときに、片山さんが深く突っ込んでいたのが印象的でした。シークに合わせて作曲したとか、そういう話は有りましたけど、それが本当に海外でやられていなかったのか疑問だと思いますし、伊福部さんの映画音楽には必ず独特な所があると思いますから(多分)もっとそれをぴたりと捉えた独創的な知見が有ったら聞きたかったです。私は映画音楽は知らないので、的外れかもしれませんが。
ちなみに私は当初小林さんの事を若い人だと思っていて、片山さんの追及に「うむ、師弟の様であるな、流石片山さんは若手の育成も怠らない人だ」とか思っていたんですけど、後で年齢順に話されて会を〆た時に、順番からいって隨分年長の方だったようですので、ずっこけました。さっきの片山さんの追及は、どうやらただ単に知りたかっただけのようです(笑)
秘蔵映像では伊福部さんの指揮姿がスクリーンに大写しになって、そのゴジラのような迫力に驚きました。眼光は朝青龍の様に鋭く、指を舐めて譜面を捲る動作は松坂大輔の様でした。確か以前に放送された映像だったと思うんですが、久しぶりに見ると以前より気が付く所があります。指揮姿から作曲家が
一転授業の様子は懇切丁寧で、流石は日本音楽界きっての教育者です。弟子の今井さんが丁寧に指導して貰った事を本当に感謝されていましたが、あれだけの色々な個性の立派なお弟子さんを育てられたということはやはり稀有なことだと思います。お弟子さん九人が作られた「伊福部昭のモチーフによる讃」を聴いた時には本当に感嘆したものです。
色々なタイプの立派なお弟子さんを育て上げる事は、教育者として最上の仕事だと思います。それぞれの個性を伸ばしたということですからね。
西洋音楽でいえばコルトーがそういう師匠として有名ですし、日本の歴史で言えば上泉伊勢守信綱とか緒方洪庵とか、伊福部さんはそういう系譜に連なる人だと思います。この音楽祭もそういった伊福部さんの教育能力、人徳が有ってこその集まりで有る事は疑うべくも有りません。
録音風景の非常に和やかなことにも目が奪われました。松下さんによればオーケストラが暴動を起こしそうな瞬間もあったそうなんですが、伊福部さんがわざと冗談を言われたり、場の雰囲気に非常に気を配っていたそうで、楽しかったそうです。これを観て思い出したのは、茂木健一郎さんが、何時も楽しそうにしている研究室が有って、それは小柴昌俊さんの研究室だった、と言っていたことです。やはりそこには「大楽」が有ったということだと思います。
オーケストラを和ませる為に言った冗談というのは、まだ演奏していない小節の演奏に対して改善の指示を出すというものだったんですが、先ほど昔の新聞の切抜きを整理していたら、伊福部さんが文化功労者に選ばれた時の記事のコメントが目に入りました。「文化庁から電話が来た時、今度はイラクに派遣されている人たちのために何か書けと言われるのかな。勘弁して欲しいな、と思った。でも、そうじゃないって言うんで、喜んでお受けしました。」と有りましたが、先ほどのが意図的なボケなら、これもボケている様で政府に対して皮肉を言っているのではないでしょうか。晩年はボケ老人の振りをして、オーケストラや社会を注意深く観察されていたのだと思います。
シンポジウムが終わり、メインコンサートを聴く為に階段を上っていきました。チケットを切って貰う前の所にも伊福部さんの写真が有ったんですが、書棚に字統が有ったので――――ああやっぱり、と思いました。白川さんの世界観と伊福部さんの世界観は殆ど同じですからね。分野が違うのにこれだけ近いものも珍しいと思います。伊福部さんは老子が家学で日本や北海道の在来の音楽を研究し、と、生涯東洋の古代と遊んでらっしゃいました。そしてその音楽には紛れも無く古代の野蛮なエネルギーが内在しています。同じ歳に逝去されたのも印象的です。コンサートでは作曲家の和田さんが、伊福部さんの音楽は東洋だった、と仰っていたと思いましたが、正に端的だと思います。
会場の入りは丁度半分位で、意外と女性も多かったです。嗜好されている部分が気になる所です。
メインコンサートは木村かをりさんが弾く「ピアノ組曲」から始まりました。実に弾くのが難しそうな曲です。第三楽章はさながら砂嵐のような迫力が有りましたし、第四楽章の倭武多は言わずもがなです(笑)怒涛の音楽を最上のテクニックで弾ききられていました。
野坂さんと小宮さんの二十五絃甲乙奏合「ヨカナーンの首級を得て、乱れるサロメ」は不健康ともアラビア風とも言えそうな音楽が、野坂さんの必殺の気合を伴って流れていました。相変わらず素晴らしい気迫で、狂うサロメと二重写しになった人も多かったと思います。
私は安いのと筝の手元が見たいなと思ったことで、二階の舞台に近い所から観ていたのですが、髪を結んだ故に露になった小宮さんのうなじが美しく、視線がどうしても集中してしまいました(笑)上から見ると、野坂さんと穏やかな小宮さんの個性の違いがより明瞭に分かります。役割分担なのかもしれませんけど。奏法の名前が良く分からないんですけど、かき分ける様な動きなど映えましたし、右手と影になってお膳立てする左手の対照も面白かったです。
朝から観ていただろう人も多いせいか、会場の集中力が欠けていて、咳を始めやたらと雑音が多かったです。野坂さんが柱を動かした時に、何か余計な音が出たと思ったんですけど、ミスだとしたら会場の影響も有ったかも知れません。
「ヴァイオリンと管絃楽のための協奏風狂詩曲(第一楽章)《音楽祭特別版》」は良い曲でした。冒頭のヴァイオリンの素朴で豊かで哀切の有る響きが素晴らしく、伊福部さんがヴァイオリン出身の音楽家である事を思い出させます。この響きは強烈なオスティナートと並んで、明確な伊福部さんの個性だと思います。アレグロになるとゴジラの動機(この曲の方が先に作曲された)がガンガン奏され、打楽器の藤田さんが非常に楽しそうに叩いていたのが印象的でした。伊福部さんの楽曲の打楽器は、軽く叩いても炸裂感があります。ピアノの木村さんも演奏全体をがっちり支えていました。
室内オーケストラの為の「土俗的三連画」は弦楽四重奏+コントラバスの弦の編成で、大きな会場ではやや薄く、ピッツィカート等はかなり頑張って弾かれていたのですが、聴こえてくる音は幽かでした(笑)
今回の音楽祭は全国から集まった有志で結成された「伊福部昭記念オーケストラ」が管弦楽を務めていらっしゃったんですが、男だけの稀なオーケストラなんだそうです。ハープ奏者も男でしたが、中々率の低い話だと思います(笑)
松村禎三さん作曲の[Hommage to Akira Ifukube]は松村さんらしい静かなざわめきが聴こえてきたな、と思ったらいきなり勇壮な伊福部流の音楽になって、瞬く間に終了しました。
交響詩「聖なる泉」は「ゴジラVSモスラ」の有名な曲で、オーケストラをバックに藍川さんが歌うのですが、オーケストラに歌が負けてしまうというので伊福部さんに作ってもらえなかった編成なのだそうです(笑)やはり流石にオーケストラに完敗していて(真横から聴いていたので、その分を考慮しなければいけませんが)、埋没していらっしゃいましたが、オーケストラの旋律も非常に美しく、もしかしたら歌は幽かに聴こえる位が良い曲なのかもしれません(笑)確か原曲も結構細い声だったと思いましたし。
少々無理矢理でもやってしまうのが、伊福部昭音楽祭の真髄ですし、伊福部さんの個性でも有ったと思います。次回もこういう一風変わった趣向があったら良いなと思っています(笑)
「「ゴジラ」より《オリジナル版》」「「大坂城物語」より」とアンコールの「土俗的三連画」のフルオーケストラ版と演奏されましたが、指揮者の堀俊輔さんの指揮が見事ながらも普通で、宇野功芳流に言えば平凡、やる価値が無い、と言えるかも知れません。ただ堀さんの指揮は、本名さんの激しい指揮で熱狂したお祭りだった前回。伊福部音楽をじっくり味わう今回。と対比すれば全体性の中で一致していた演奏だったとも言えると思います。「大坂城物語」の美しい旋律の部分などは印象に残りました。
あんまり感動しなかったので、取った席が悪かったのかなとも思いましたが、コンマスがテンポを指定して指揮者無しで奏した、アンコール二つ目の「宇宙大戦争マーチ」が本編の「「ゴジラ」より《オリジナル版》」で奏された時よりやや速く、音を聴き合った素晴らしい演奏で、やはり堀さんは普通過ぎたのだと結論が出ました(笑)会場全体で手拍子をして、実に楽しい終幕でした。朝から長丁場で、出演者の方々と統括をされた方々の苦労と情熱は想像に余ります。今年も有難うございました。
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