私は東儀さんのファンと言って良いと思うんですが、取り組みの方向性に対してのファンでもあります。伝統と現代を調和させていく仕事は素晴らしいですし、音楽も魅力に溢れています。
こういう人がもっと沢山出て、個性を競い合って欲しいし、東儀さんが居なくなったらこの分野はどうなってしまうのだろう、とも思います。
和楽器の音色は大好きです。昔は龍笛の澄んだ音色が好きだったんですけど、最近は笙の複雑な神秘性も好きかもしれません。西洋の音階と一番相性が良いのは篳篥だそうです。
「幻想のアプサラ(シハヌーク・イオン博物館イメージソング)」はドラク○のフィールドの音楽の様な曲に和楽器独特の幻想性が付加されます。久石譲さんが著書で民族楽器の持つ音色の強さを強調されていましたけど、雅楽器も本当に鮮やかな魅力を持っていて、久方ぶりに一聴して心が驚きました。
「A Boy with TATA」は子供の声を題材に作った、喜びに溢れた曲です。リズミカルで明るい、となれば中々個性を出すのが難しい領域ですが、篳篥の音色の味は格別で、安っぽさは皆無です。
表題になっている「Every Little Life ~ 生きとし 生きるものへ~」は日本人が好きな小さな世界に目を向けた作品。静かに息づく生命力が、篳篥でふんわりと描写されます。
「BLUE OCEAN(カレッタ汐留Caretta OCEAN Xmasより)」はザトウクジラの飛沫の音が入っているというもので、東儀さんは色々な音の重なりの可能性を探るのが好きな人です。東儀さんの世界を相手にしていく様な志向は風通しが良くてよいですし、全編ゆったりとしながらも変化に富んだ曲です。
「Keep on Moving(日本マクドナルド株式会社プレミアムローストコーヒTVCF曲)」は思わずたーのーしーいーかーーもねっ、と歌いだしだしたくなるようなイントロ。篳篥をトランペットの様に扱っていて、楽器の可能性を感じます。ロックンロールと解説にありますが、曲調はなだらかで楽しいです。
「Favorite Feeling」は聴いたことがあると思ったらCMの曲なんですね。ピアノのソロが印象的な、町をどこまでも行きたくなるような、快活な気分にさせてくれる曲。
「七つの子」は日本の楽器ならではの本元の魅力。コーラス等も効果的に使われています。
情緒的というより、わざとらしく、野暮ったく歌われてしまうことも多い曲ですが、篳篥の音色も仕上がりも洗練されていて、その洗練がかえって情緒を醸します。
東儀さんは良い意味でファッショナブルな人だ、という事が良く分かる編曲。
「モーツァルトの子守歌」は宇野先生の豊かにしてピアニッシモの効いた名演が一部の音楽ファンの心の中に生き続けている作品。この前、MDを適当にかけたら田園が流れだし、何の変哲も無い第1楽章だなぁ、と思ってよくよく調べてみたら、宇野先生の演奏で狼狽した事がありました。宇野先生は時に妙に正統派になるから油断できません。別に工夫が無いのが、魅力的なんですねぇ。
こういう子守唄系は、情緒が残りながらもすっきりとした音楽になるので、篳篥は向いていると思います。
「地球よ 優しくそこに浮かんでいてくれ」は凄いタイトルですが、シンセサイザーの低音のストリングスを聴くと、宇宙に浮かんでいる地球を想像できてしまうのが面白いです。そこに篳篥が乗っかって来る訳ですが、かんさびた所のある楽器なので、地球のぽつんとした力強さが上手く表現されていると思います。
東儀さんらしくて、ヴァリエーションも豊かな良いアルバムだと思います。
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