上原彩子 展覧会の絵 チャイコフスキー:ピアノ協奏曲第1番

#その他音楽

この前、本屋をぶらぶらしていたら文春新書の「新盤 クラシックCDの名盤」がありました。旧版を持っているので、買うつもりはなかったんですが、ぱらぱらと捲ると宇野先生が「展覧会の絵」のピアノ版で上原彩子を推薦していました。

上原彩子――――――――。

いや、あんまり聴いた事は無いのですが(笑)それにしもこの演奏の歴史がある曲で、新鋭を推薦する宇野先生の意気は素晴らしいです。やや驚いて、衝動的に買っていしまいました(笑)
ただこの本全体をさらっと見た感じで言えば、少々無理矢理でもお二方―――――特に福島さんには、もう少し新鋭を推薦して欲しかったです。

上原さんは、お久しぶりに写真を拝見したら、ソフトボールの上野さんにそっくりなのでビックリしました。才女の貌なのかもしれません。

チャイコフスキーの「ピアノ協奏曲第1番」は、ホロヴィッツ/トスカニーニの爆裂演奏を聴いていた位だったんですが、ここ数年はそれも聴いておらず、本当に久しぶりです。
第1楽章は壮麗な始まりから。カデンツァでの指回りの良さは素晴らしいのでは無いでしょうか。滑らかで、音が前後の音と溶け合い、音楽というより水彩画のような、一塊の芸術のように聴こえます。
一方で一音一音は明晰で粒立ちがよく、鉄琴のような長所を持った音色だと思いました。
第三楽章冒頭の決然とした弾き方も格好よかったです。ロンドンフィルの淡い音と、相性の良い感じで響き合っています。

展覧会の絵は、まずは「プロムナード」から。
変わったプロムナードですねぇ。非常に強い演奏なんですけど、壮麗には聴こえない。それはきっと仕掛けが沢山あるからです。テンポの細かい変動に、テヌートっぽい独特のアクセントが意欲的です。
これは宇野先生が推薦します(早

「こびと」も、音楽が壊れる寸前まで、トリッキーな不気味さを演出します。テンポに捕われない弾き方が、芸術的です。音楽が、生物的な域まで達しています。

二回目の「プロムナード」は水中花を思わせる、ぽちゃっとした美しさ。
闇にへだつや花と水 沖田総司の辞世が浮かびます(何故
「古城」も古いというよりは、どろんどろんとした弱音が徹底していて、沈潜していて、海底遺跡を思わせます。

さぁ行きましょうといった感じの、三回目の「プロムナード」を過ぎて、「ビドロ」は左手の和音を基盤に、右手が暴れていて、不気味で、聴いていて不思議な快感がある曲になっています。

四回目の「プロムナード」は絶え絶えな感じが出ていて、プロムナードの性格の弾き分けがとても見事でした。
「卵の殻をつけたヒナ鳥の踊り」はトレモロ上手いっすね。こういう、基本的な技を、有機的な相に還元して、弾き繋ぐのが、とても上手いピアニストだと思います。

五回目の「プロムナード」は独特のアクセントで呵成に弾いていて、うねる様なプロムナードに驚きます。
その勢いのまま「リモージュの広場」は高速にして絢爛。ビックリしますね。宇野先生が良く言う、曲を発見させてくれる演奏とはこういうものの事でしょう。
「カタコンブ」はポゴレリチの洞窟のような不気味さが記憶に残っているのですが、上原さんのは、緩急自在でタッチが確りしていて、谷間の放って置かれた墓地に四季が廻るようです。

「バーバ・ヤーガの小屋」も速いテンポの抉る様な始まり。サスペンスの冒頭を思わせます。ベートーヴェンのピアノソナタのような、熱く意思的なリズムが素晴らしいです。

「キエフの大門」も上原さんが詰まった演奏。
左手のスケールの、堂々とした、羽ばたくような音色。クレンペラーの「ベト7」の様です。
肥大化しきったように弾く人も居ますが、上原さんはニュアンスを重視している印象です。
締まった表現のまま、逸脱し、花火が散るように弾けていきます。

硬質にして、表現意欲あふれる、良いピアニストだと思います。
キーシンがルーヴル美術館の前のオブジェだとしたら、上原さんはルーヴル美術館そのものです(やや大げさ)

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