上原彩子 プロコフィエフ作品集

#その他音楽

続いて上原さんの演奏を。
このCDの解説によれば、上原さんはドラクロワやジェリコーの絵が好きで、暗い雰囲気を湛えた絵が好きなのだそうです。その陰影の按配は上原さんの演奏に近いと思いますし、プロコフィエフにも近いかもしれません。そして、この「ロメオとジュリエット」もまた、そういう作品のような気がします。

第1曲「フォークダンス」はメゾピアノ(多分)っぽい音を基調に懐かしさを醸します。小さめの音を大切にした、重心が低い演奏です。
第4曲「少女ジュリエット」は中間部の美しく、気だるい旋律が良いです。始まりの速いパッセージが見事ですが、単調な拍子を感じさせないように弾くのが、上原さんの重要な個性だと思います。
第6曲「モンタギュー家とキャピュレット家」 は運命を感じさせるような歪みが入っている所が好感触。皮相なまでに壮麗に奏でたと思えば、所々で崩落しそうになります。ピアノ版ですが、CMで良く知られている旋律で、プロのソロ演奏家の工夫が分かって、面白いですね。
第7曲「ローレンス僧」で一転して旋律が柔和になり、第8曲「マーキュシオ」 の整っているのにごたごた感が出ている、アレグロに上手く繋がります。
第9曲は「百合の花を手にした娘たちの踊り」という題名もいみじく、お花畑な幸福感がある曲。音楽が流れすぎず、所々レガートを上手くつけて粘っこい感じにしている所が良いです。

「戦争ソナタ」は面白くなく感じて、最後まで聴かないでしまう事もある曲ですが、上原さんの音楽は瑞々しく、暗い表現でももたれる所が無いので、音楽的な楽しみを感じつつ聴くことが出来ます。
破壊的な旋律の中でも、音が常に輝きを持って語りかけてきます。
第2楽章も分裂しかける音楽の中に、甘い薫りが漂い、武満を思い出させます。
第3楽章は上原さんらしい、疾風の様な表現が秀逸。ファジル・サイのような集中力ですが、一曲として纏める力はサイを凌ぐと思います。

「つかの間の幻影」は「水の戯れ」の様な楽しい曲。そこにたまにプロコフィエフっぽいサビが入ります。上原さんの表現は全く手を抜かないもので、ppからmpの間を微妙に揺れ動く風情には、ため息が出ます。

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