ハイビジョン特集 城 王たちの物語 女王イサベル 終(つい)の楽園 アルハンブラ宮殿

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グラナダを陥落させスペインの再征服を達成したイサベル女王はメアリー一世の祖母です。

みんなが平和に暮らしていた場所に侵入してきて、キリスト教を強制していくさまは「インカとスペイン 帝国の交錯」((興亡の世界史) 網野 徹哉 (著))に良く描かれていますけど、これは実に酷いです。

番組中でも宗教の自由を認め、宗教施設を残すという、グラナダのイスラム側の降伏条件をすべて反故にし、ユダヤ教徒・イスラム教徒を弾圧し、モスクを破壊。

ここを踏まえるとメアリー一世の行動原理がすんなり理解できるところでしょう。精神がおかしくて血の粛清を行ったというよりは、家の作法を忠実に実行しただけの人だったとも言えます。

一方でライヴァルのエリザベスは「エリザベス―女王への道」(デイヴィッド スターキー (著), David Starkey (原著), 香西 史子 (翻訳))でヘンリー8世の模倣が非常に多いことが指摘されています。

3歳で母親が処刑されたエリザベスに対して、メアリーは母が失脚したときにすでに大人だったので、手本にするには抵抗があったので、母方の影響を受けたのではないかと推測します。

エリザベスは父親の血筋が頼りだったというのもあるでしょう。

それと比べるジェーン・グレイは、流されてしまったともいいますが、政治的なキャラクターが薄かったのは近くにそういった手本がなかったからかもしれません。若くして亡くなったので何を言っても推測ですが。

他には、上の本ではエドワード6世がジェーンの即位をプロテスタントの立場から個人の意思で積極的に推し進めたさまが描かれています。

また、「エドワードが男性だけが統治者にふさわしいと決めるよりどころとした進歩的プロテスタント信仰など、二度と再び甘んじて受け入れることはできなかった。」(同上173ページ)とエリザベスはプロテスタント嫌いであると書かれています。

現代で言えばエリザベスの感覚の方がより進歩的でしょう。
日本社会の後進性は、マックス・ウェーバーが世界でどこよりも読まれている、と言われているのと関連があるのでしょうね。

この本はジェーンについても197ページ前後の処刑シーンを中心に、堅牢と思われる研究をもとに類書の中で一番書かれいるくらいだと思います。

エリザベスにとって「レディ・ジェイン・グレイの断頭台はとびきりの教科書になった。」(442ページ)らしく、とにかく人命が損なわれないような、いさかいが起こらない治世にしようという決意のもとになったのだそう。

そうであれば、舞台のロジャー先生の、国の大きな礎になった、という言葉も響いてきますよね。

ただ、その社会的影響は、史実だとずっと取り乱していた、という部分も大きかったのかもしれません。

フランスの革命期について書かれたものでは「みんながデュ・バリー夫人のように、泣き叫び、身をもがき、命乞いをすればよかったのだ、とサンソンには思われた。そうすれば、人々も事の重大さに気づき、恐怖政治ももっと早く終わっていたのではないだろうか―――」(物語 フランス革命―バスチーユ陥落からナポレオン戴冠まで (中公新書) 安達 正勝 (著)245ページ)ともいわれています。

舞台との違いや窺い知ることのできなかった事件の波紋についても書かれていますので、舞台を観た方やDVDを買われる方などもぜひぜひ。

あえてエリザベスの修業時代である前半生に焦点を当てたこの本は欧米でのベストセラーだそうですが、後半生を学術的に綿密に描いてしまうと、ちょっと困ったことになるから、というのは大きいでしょう。

「世界史をつくった海賊」((ちくま新書) 竹田 いさみ (著))は、実質エリザベス朝の「女王陛下の海賊」に焦点を当てたもので、上の本の続きといっても良い内容。

「ドレークは実に三年分の国家予算に相当する”海賊マネー”を。イギリスに持ち帰った」(19ページ)といった感じだったとのこと。「ポルトガルはエリザベス女王に再三の抗議を行っている。」(206ページ)のにのらりくらりとかわすあたり、最近の中国の著作権侵害と同じようなものを感じます。もちろんだからと言ってどちらも正当化されるものでは全くありませんが。

これはヘンリー8世の時代から始められていたというのも注目点。エリザベスの模倣がここにも表れているといえるでしょう。

また、「エリザベス女王の”目と耳”」(59ページ)であるスパイを組織したことにも触れられていて、ここでも、エリザベス朝の時代にイギリスの原型が出来上がっていることがわかります。

イギリスは「海賊依存型経済」からそのお金を元手に「貿易立国として経済発展」したのだそう。「イギリスによる貿易独占」によって富を蓄え、競争力を付けたのちに自由貿易に転じたようです。(103ページ)
「イギリスは自由貿易を唱えてきた近代国家であるというイメージが強い」(113ページ)がエリザベス女王のころはこの通りだったとのこと。

「ザ・シティは現在、グローバル経済を動かす金融街として知られるが、もともとは冒険商人や大物海賊のたまり場として有名だったのである。」(112ページ)とのこと。
「有力な収入源がほとんどない国情であった。しかし大国志向は強」(101ページ)かったらしく、どちらもそれを満たすための手段として並列することもできるでしょう。

これは同じく島国で「持たざる国」を自称して、満州なり原発なりと幻想の中で背伸びをしてきた日本にも、いろいろな面で参考になる部分といえるでしょう。

「持たざる国」というのは結局は大国志向である、ということを、例えば片山杜秀さんはいいませんし、半藤一利さんも、言わないと思います。必ずセットで触れられるべき視点といえるでしょう。

しかもさらには日本は国力の追及のしかたを何度も致命的に間違えているのです。最初から国力は追及されていなくて、軍部や官僚、政治家にとっての利権があり、つねに国力の視点はあとづけだったのかもしれませんが。

戻って「エリザベス女王にとって、奴隷貿易が極めて重要な資金源であったことは間違いない。」(194ページ)ということもあります。「女王主導の奴隷貿易」(208ページ)だったとのこと。「女王への道」にもアイルランドに対する苛烈な仕置に触れられていますが、これでは誠実に書こうとすればするほど美化できるものではないでしょう。

スペインなどとの苛烈な競争関係の中で必死に生き抜いた君主ではあるのですが、被害を蒙った人の苦衷を思うとそのようなことも書きづらいくらいです。

しかし、この本は巻末の参考文献が大量で、一日一冊読んでも一年くらいかかりそうです(^_^;)

著者は最近マレーシア航空の墜落事故にコメントを求められてテレビに出ているのをみかけましたが、まさに学者といった感じの知識を楽しむ雰囲気がありますよね。

番組に戻ると、スルタンたちが興亡を繰り返した「血塗られたアルハンブラ宮殿」の解説もされていましたけど、これは欧州の他の場所でも似たようなところがあるでしょう。悪徳の地をキリスト教のものとに回復したのだ、という無理やりな史観を感じますね。

イサベルが女王だった時にアルハンブラにはハーレムがあった、と彼我の男女の人権の差を比べるようなアナウンスもありましたが、そもそもイスラムは女性に手厚い宗教です。

キリスト教は一夫一妻制だから、と比較して日本の歴史的な男女関係を乱倫と捉えるものがいまだに多いですが、権力者の愛人の囲い方は日本よりよほどひどいです。勝海舟が証言している通り、日本の方が慎みがあるといえます。

ほかにも、キリスト教は神の前で全員平等だ、と最近まで日本では信じられてきて、同様の記述を最近でも(谷川健一 (KAWADE道の手帖) 河出書房新社 (編集))での谷川さんの発言で読みましたけど、王権神授説をはじめ、キリスト教由来の差別思想は多く、強固です。植民地支配や侵略の大義にも使われています。

現代のいろいろな資料が手に入る立場から言えば、こういった偏見は理解に苦しむとすらいえます。
時代的なものも含めた、偏見と、研究者の研究不足とそれの普及不足なのでしょうね。

また、この番組では「再征服」という言葉をあっさり使っていますが「19・20世紀の創作であった。もともと再征服ということば自体も愚かしいが、かつての日本ではさらにそれを美化して、国土回復運動と和訳した。西欧ならば、なんであれ良しとする精神は、率直に恥ずかしい。イスラーム到来以前に、スペインもポルトガルもキリスト教支配もなかったことは、誰の目にもあきらかである。」(「人類はどこへ行くのか」((興亡の世界史) 杉山 正明 (著)38ページ)とのこと。

また、イサベル女王はコロンブスの航海に許可を出したことが有名で、この番組でも見せ場になっていますが、同じく杉山氏の著作によると、海上帝国であったモンゴルの航海技術が地中海・ヨーロッパの航海技術の進歩を刺激し、その技術がイベリア半島に蓄積され、西洋の海洋進出が可能になったとのこと。(「モンゴル帝国と長いその後」(興亡の世界史) 杉山 正明 (著)32ページ)

海の帝国としてイギリスよりスペインが先行した理由がここに見出されるのでしょう。

また同じく349ページには「海洋遠征においては、壊血病の克服が長らく一つの壁だった。キャプテン・クックの航海までは、壊血病の恐怖はつづいた。ちなみに、アジアの船には古くから壊血病は存在しなかった。資料が多いモンゴル時代で言えば、大元ウルスは泉州や広州にレモンの官営農場を設け、レモネードを作って船乗りたちに供した。いわゆる西洋優位思想をうのみにするのは、ときとして危険である。ヨーロッパの優位は、19世紀後半以後においてこそ、激しく世界展開した。」とのことで、航海技術は東洋の方が進んでいたということでしょう。

アルハンブラのモザイクのタイルは極めて高度な幾何学で決定されていて、一つのピースの形を割り出すのに、コンピューターで計算しても一週間もかかったとのこと。

さらにそれを実現して形にする技術もずば抜けています。

エジプトやオリエントの影響を受けたギリシア文明をさらに発達させた中世イスラームの学問技術の高さを知ることができます。

16世紀のイギリスについて、「とびきり愉快なイギリス史」 ((ちくま文庫) ジョン ファーマン (著), John Farman (原著), 尾崎 寔 (翻訳))にギリシャの古典を学んでイギリス人がぐっと賢くなった時期だ、とありていに書かれていますけど、イスラムのこういった知識が流入したんでしょうね。

城の中には女性の一人称でたくさん言葉が彫られているらしく、そのあまりの豪華さに「東は私を妬む」と書かれているそうです。

てっきり東のイスラム世界のことだと思いきや、東洋のことだとのこと。この建物は東洋に対する西洋なのだそうです。

たぶん、建てられたころは、キリスト教世界は眼中になく、むしろ東洋に対抗心を燃やしていたのでしょう。

番組はイサベルについて綺麗にまとめたきらいもありますが、アルハンブラは圧倒的で、そのすごさを鑑賞することができました。

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