5月27日(金) 川口リリア・音楽ホール 庄司紗矢香 無伴奏ヴァイオリン・リサイタル その3

#音楽レビュー

休憩後は細川俊夫:新作(2016)《委嘱作品・世界初演》ヴァイオリン独奏のための「エクスタシス」(脱自)

やはりというか現代曲調。

一つの音をひたすら長く弾く部分と、トリルというのか「くまんばち飛行」をヴァイオリンでやっているような部分の、二つの部分から成り立っています。

両方とも庄司さんの演奏の非常に魅力的な断片で、さすがに個人に献呈されただけはある感じ。

そもそも名演奏者は一音をすっと弾くだけでとても魅力的なんですよね。そういう良さを生かしているとも言えます。

現代曲なんですけど、嫌な音は鳴らない作りで、それによってそういう魅力が生きていましたね。

庄司さんを巫女に見立てて作られた、ということで巫女だからなのかどことなく東洋調。

なんとなく尺八や琵琶の影というか、和楽器を模倣したような音の動きを感じました。

そういう意味では武満徹の影響を感じさせます。
和楽器が根本にあるというのはただの現代曲のように、演奏の根本が根無し草になるのを防いでいると思います。

そういう同じような音が何度も繰り返され、こんなに長くなくて良いんじゃないか、、、、と思った時に、ああ、これは現代曲調のミニマルなんだ、と気が付きました。

民俗的に高まる忘我の境地をオスティナート(ミニマル)で表現するのは伊福部昭氏の手法です。その系譜を引いた作品といえるでしょう。

そういう精神を高めきったような音のルーティーンを何度も聴いていると、こちらも頭から血が引いていく感じで、庄司さんの姿もぼやけた感じで見えます。

川口リリアの舞台の構造は変わっていて、舞台裏にぽっかりと黒い穴が。深淵が口を開けているようであり、黒い翼のようにもみえます。

この曲が多くの現代曲と違うのは、音楽的に全体に整合性があり、聴いていて風景が浮かぶこと。

「津軽海峡を望む円空」じゃないですけど、例えばそういう風景が浮かびました。

映画などで効果的に使えそうな曲です。

極まったエクスタシーというのは本当は無音かもしれない。そうであれば無声を有声で表現しようという試みがこの曲であるともいえます。音以前の音を表現しようという細川氏の真摯な努力を感じました。

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