バッハはベートヴェンの様に熱く強烈な音楽だということも無ければ、モーツァルトほど神聖な訳でも有りません。バッハの長所とは何だろうと思ったんですけど、それはメロディの美しさと自然で落ち着いている流れの微妙にアンビバレンツな所に有るのではないかと思いました。
前者の要素は第10変奏や第31変奏のメルヘンチックな感じや第27変奏や第29変奏の闊達な美しさに表れていて、一方後者の要素は第16,22,26変奏の低音を良く使った音楽に表れていると思いました。この曲はカイザーリンク伯爵が眠れない時に弾かせた事で有名で、「聴いているうちに眠気を催してくるような退屈な作品ではない」と解説でフォローが入っていますけど、特に16番辺りは音が低い上に少なく、本気で眠らせに来たなと思いました(笑)それに聴いていると眠気を催させる作品が覚醒させる作品より劣っている、という考えもちょっと違うと思います。このCDも曽根さんの丁寧に表情を付けた演奏で、とても楽しく聴けました。最後のポピュラーなアリアなんかとても優しく弾いていて、個性的です。
このCDは周囲の騒音と戦いながらパリの教会で録ったのだそうですが、教会の残響がチェンバロにぴったりでふっくらした良い音楽の造りに一役買っていました。
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