当盤は1160~1390年頃の二百年以上に亘るグレゴリオ聖歌に基づくポリフォニーの歴史を辿るCDということで、ヨーロッパの音楽の初期の在り様を聴く事が出来ます。
最初の数曲の余りに素朴なメロディを聴いていて、流石に古いかなと思い、半ば資料を読む気分で聴いていたのですが、トラック4の「この所を」を聴いていたら、古雅な佇まいの中に幽かな官能性がちらほらと顔を出しているのが聴き取れ、以降の曲は非常に楽しく聴けました。こういうのはクセになるかもしれません(笑)宗教曲に関して言えば楽しませようという気はあんまり無い様に思うんですけど、その代わりそこに詰まっているのは宗教的な心情で、そこに心を合わせれば、実に楽しいです。素朴で音が少ないんですけど、それがこのCDの長所です。京都の様な町並みの中に身を置いていると、梵鐘の音一つで非常に感動してしまうことが有りますけど、それに近いと思います。統一感が有るんですよね。世俗的な曲も「私の感じる甘き苦悩は」であるとかたゆたう雰囲気が独特で、まさに味わい深いです。
クリニューの「パンテオンは打ち壊され」は一等華やかな曲で、かなり直裁的な良さが有ります。以降は複雑だったり速度の速い曲が多くて、ポリフォニックな壮麗さを感じさせてくれます。
バロック後期以降の西洋音楽を聴かれないという方が結構居ますけど、やはりそれは本当に質的に違うからだと実感しました。
様々な作曲家の曲を合わせたものですが、その素朴で官能的な響きは全ての曲に亘っていて、演奏家のマンロウの個性でも有るのだと思います。マンロウ自身が書いた解説も非常に丁寧で、図書館に返すのが勿体無い位です(なんのこっちゃ)磯山さんの解説でもマンロウの「音楽で最も大切な物は表現である」という発言の要旨を言葉を変えて何度も強調しておられますが、そういう態度は私の最も共感する物ですし、このCDからは確かに表現を重視した音楽の喜びが感じられます。
後期バロック以降の曲を振ることを専らとする指揮者に無理矢理例えれば、クレンペラーの味わいとやや近い所が有るかもしれません。本当に芸術的なCDですので、そういう視点から色々な人に聴いてもらいたい、と願わずには居られない演奏でした。
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