モーツァルトヴァイオリンソナタ集 内田光子/スタインバーグ

#その他音楽

前にモーツァルトの器楽曲の演奏の選び方は難しいといいましたが、そんなこんだで普段あんまり器楽曲を聞く機会が少なかったのでいくつかCDを選んできて聞いてみることにしました。

まず選んだのはこのCDですが、内田光子というのは当代一のピアニストの一人だと思います。その特徴は極めて深く玄い音と日本人らしい(内田は日本にあんまり縁のない育ち方をしたようですが)とも評される濡れた情緒にあります。日本の森のような豊かさと適度な湿度を感じるような感じなんですよね。

出来は予想通り素晴らしく、このCDを聴いた後に次の作業をやろうと思っていたんですが、余韻が勿体無くてなかなか取りかかれない程でした。

内田の打鍵は庄司さんのヴァイオリンでも聴いているのかと錯覚させるような、味わい深さが有りましたし、スタインバーグのヴァイオリンも柔らかく繊細で見事でした。

大体才能の有る人は才能の有る人をパートナーに選ぶんですよね。内田がベートヴェンのピアノ協奏曲の全集を録音したときにザンデルリンクと録ったのは典型的ですし、話はズレますがお笑いのダウンタウンなんかを見ていてもそう思います。というわけで密かにスタインバーグについても聞いたことが有りませんでしたが期待をしていたんですが、実に見事でここでもスタインバーグと共に内田は流石だなと思いました。

とはいえど、では内田のモーツァルトが完全無欠かと言えばそうではなく、モーツァルトの個性を基準にして演奏を観れば天真爛漫さがどうしても欠けています。深味の点では無類なんですが、逆に言えば10分も聴けば疲れてしまうような演奏でも有って、モーツァルトを聴きたいと思う時に聴く演奏としては少し躊躇してしまいます。

勿論内田の演奏は過去の巨匠達も含めて望み得る最高の物に近いのですが、それでも表現しきれていないのでは、と思わせるモーツァルトの曲には更なる天才性を感じます。とはいえこの演奏は真に深遠な領域に足を踏み入れた数少ない音楽の一つだと思います。

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