まずは菱川師宣からです。隣の御婦人が「遊んでいる所ばっかね」と呟かれていましたが、私も浮世絵の原点は絵に描いた餅で有ると深く納得しました(笑)菱川師宣の頃はまだなんとなく安土桃山の気風があって、画面全体が華やいでいるのが良いですね。
次は懐月堂派とその影響を受けた絵師達でしたが、元祖の安度の絵以外はあんまり良いと思いませんでした。なんか大雑把で戦前の金太郎の絵本みたいな感じも受けました。その中でも安度の絵は厚ぼったい中にも気品があって絶妙でした。特に「観梅美人図」は繊細の極みで、淡い色調がただ事で無い巧さ(失敬)を演出していました。
良かったのは川又常正の「風に悩む美人図」やうっかり出てましたな西川祐信の「柳下納涼美人図」ですね。和服である事だし他の絵ももっとうっかり出ていても良いと思うんですよね・・・・。
北尾派は独学の人が一派を興したという事で興味深かったんですが、なんとなく派内で統制の取れていない感じに自由な気風を感じました(笑)
長文斎栄之は群像図だけど何処かモダンな感じがする絵で、静的な中に感動を起こさせる所にクレンペラーの音楽に近いものを感じました。
歌麿は艶やかの一語に尽きます。菱川師宣の艶やかさと違って、江戸の爛熟した文化が香って来る様な微妙な滋味も併せ持っているのが良い所です。
一番の見世物はやっぱり北斎の「樵夫図」ですね。今回の展覧会のコレクションの傾向で美人図ばかりだったというのも有って、余計新鮮で衝撃を感じました。
樹はロールシャッハ・テストを迫力百倍にして芸術に高めたような物で、得体の知れなさに底知れぬ深さが宿っていました。樵夫の四肢のデッサンの堅牢な事はダヴィンチの様で、樵夫の逞しさ、実在性を表現して余す所が有りませんでした。
月下歩行美人図も構図・シュチュエーションの選定共に抜群のセンスで、更に展示の最後で説明されている通り精妙な着物の柄も感嘆させました。
着物の柄に付いては本当に皆々並々ならぬ描写で、北斎のみならず懐月堂安度にしても歌麿にして尋常では有りませんでした。浮世絵の肝にして存在意義の一つなのでしょうね。
「亀と蟹図」は蟹の骨格の様に北斎の筆遣いの息吹きが感じられて、前に見た肉筆帳を思い起こさせました。
今回の展覧会を全体としてみると、あたかも浮世絵の通史の様な充実を誇っていましたが、楽しむ点からいえば正統派の美人図の割合が多過ぎで、もう少しアクセントが有っても良かったのではと思いました。勿論比較の楽しみも他に代え難い物ではありましたし、やっぱり結局はとても楽しかったです(笑)
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