行って参りました。昔から夜景には心惹かれるものがあります。私は月がとても好きでして、夜に動いている時はたまにふっと見上げるだけで気持ちが澄んで来る様な気がしますし、単純に楽しくなるものです。というわけで今回の展覧会は見逃せません(笑)
昼食は毎度明治神宮で。今回は珍しく参拝する気になって5円玉を放り込んで来ました(笑)やっぱり明治神宮の自然は良い感じですね。
西洋には夜景を描く伝統が無く、ジャポニズムの影響で初めて描くようになったと聞きました。ゴッホの夜景の絵には広重の絵の影響が見出されるそうです。
最初にあった一連の肉筆画では渓斎英泉の「月下柳下の芸妓図」が帯のプルシャンブルー(多分)が映えていて素晴らしかったです。他にも青を木の影の表現に使っていて、質感を上手く出していました。何気無いポーズが、浮世絵らしい実際取ったとしたら結構大変だろうと思われる格好で、しなやかさを感じさせます。裾の表現なんかも丁寧で、退館する直前まで観ていたのはこの絵と隣の応為の絵でした。
目玉の応為の肉筆画の「吉原格子先の図」は凄い絵で、光りの描写が極めてアナログ的で、大変な画力だと思いました。この柔らかさが和式の光りの魅力を強調していて、日本ならではだし、女流画家の応為ならではの絵といえると思います。応為の画力はどの作品を見ても本当に凄いです。父親の北斎の絵の中にも応為が多くを描いたものが含まれているそうですし、人生・画業共に謎に包まれた大絵師だといえましょう。絵に戻ると明るい区域での緊張感と、暗い所のリラックスした雰囲気の対比も面白かったです。
今回の展覧会で面白かったのは渓斎英泉ですね。鳥居清長とか鳥文斎栄之、広重といった人達の絵は静的な印象を受けますが、英泉の絵には何処か画面に定着しないあばさけたものを感じます。「東都名所尽 吉原夜桜之光景」は二階窓から身を乗り出している遊女の快活な感じが良かったです。
多かったのは広重で、「東都名所吉原 仲町之夜桜」は低い視点から描かれていて、町並みの透視図法が迫力が有りました。「隅田堤 闇夜の桜」は折角の桜を黒で描いている所が非凡です。「雪月花の内 月の夕部」も月を描かずに、月の光りで出来た美人の影で暗示させるというもので、一番映える所を描かないという事では前作と共通します。江戸の美意識の結実ともいえるでしょう。「名所江戸百景 月の岬」も宴会の後を描いた作品で、シルエット以外に人は描かれておらず、一番盛り上がっている所を敢えて外す所に趣があります。寂々とした感じが良いです。「六十余州名所図会 江戸浅草」は年の市で異常な程に賑わっている様が描かれていますが、視点は雪雲と共に有って、超越的なものから見た賑わいの寂しさのようなものが出ていました。本当に広重は工夫が有ってセンス抜群で、浮世絵師の中でも一番味わい深い絵を描く人の一人だと思います。私とも波長がぴったり合う様な気がします(笑)更には3枚続の「武陽金沢八勝夜景」が見事なパノラマで、ずっと見て居たい様な気持ちになりました。
明治以降のものも結構有って、小林清親の「御茶水蛍」が夜の河を描いた作品で、しんしんとしていて良かったです。豊原国周は明治の写楽といわれた人だそうで、八犬伝の役者絵が数枚置いてありました。写楽を名乗るには造形がスマートですが、明治独特の発色の良い絵の具が嫌味になっていなかったのは見事だと思いました。明治の絵は技法と絵の具が調和していないようなものも多いんですよね。川瀬巴水の「潮来の夕暮れ」もぽつねんとした魅力が有りました。
夜景というのは日本独特のもののあはれといった感覚が最も発揮される画題の一つだと思います。趣深い物が多く、期待通りの展覧会でした。
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