アポロ芸術的な演奏でもなければ、ワルター/ニューヨーク・フィルのような深く抉った演奏でもなく、最新鋭のオフロード車が、道無き道で見せ付ける様な美しさがあります。
独特の力感、ティンパニの使い方で、ロマン的には聴こえます。
ゆったりした一定のテンポを基調に進んでいきますが、岩城宏之とかベームの様な、四角四面な印象はありません。
区切りの所でちょっとリタルダンドをかけるとか、そういう気分が好きですね。
あんまりロマンチックな性格の人ではない様で、緩徐楽章も余り歌いません。その変わり、鍋底のお湯が僅かに沸騰している様な感じで、静かな情熱を感じさせつつ、淡々と進んで行く所に、独特の味があります。
第3楽章は速めのテンポ。三拍子の舞曲らしさ、ということでは有数の演奏なのではないでしょうか。
するするぐんぐん進んで行く勢いが個性的で、発見があります。
第4楽章も速いテンポの演奏で、第3楽章の流れを受け継ぎます。導入のpの表現からして見事ですし、音楽が躍動しています。現代のアバドその他のべちゃっとした演奏になる際に、どこで伝統が途切れてしまったのでしょうか。
野太いだけでは無く、所々の最弱音は決まっていますし、当時のライプツィヒ放送交響楽団が持っている音色の艶めきも魅力的です。
ジュピターのベートーヴェン的な解釈には常々違和感を持っていたんですが、かといってモーツァルトの前衛性が表現されていないものも面白くありません。そう考えるとこのアーベントロートの演奏位が、一つの答えなのかもしれません。
アーベントロートの個性と、モーツァルトの個性が上手く合わさっていて、例えるならガラス造りの帝釈天、と言った所だと思います。
ディベルメント第7番は、ディヴェルメント的では無い演奏。ゆっくりとしたテンポで、メロディの美しさを見せ付けたかと思えば、すかさず急に転じて、内容を充実させます。装飾的なトリルも、くっきりと奏していて、しつこくならない程度に音楽的です。
「四つのオーケストラのためのセレナード第8番」も「ディベルメント第7番」と同じく、ケッヘル番号が200番台の若書きですが、旋律の美しさと秘められた深い表情に驚かされます。
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