プティボン 恋人たち

#音楽レビュー

プティボンの歌のCDです。
最近テレビで音楽を聴く機会が多いのですが、テレビで見るとCDより、点が甘くなってしまうような事があります。良く観ればより分かることもありますし、感想を書いたもので、そういうものはありませんが(念のため)
音楽愛好家の寄る辺である雑誌の名前がレコード芸術である所が典型的ですが、実演よりCDやレコードに頼る日本の音楽事情は特殊です。そしてそれは意外とプラスに働いているんじゃないか、と思っています。
より質の良い昔の録音が聴かれやすい、というのは善悪ありますけど、耳が鍛えられてプラスだと思います。
また、筋の良いファン・評論家の間に視覚を断つ事によって得られる、ある種の繊細さが確かに存在すると思うんです。海外の評論に通暁しているわけではないので、言い切る訳にはいきませんが・・・。

そんな中でプティボンは逆に、CDで聴いてより感動した歌手で、それは繊細な歌い手だからだと思います。
容姿に目が行くと、見失うタイプで、綺麗な女性にとって、容姿や年齢というのはおまけなのだな、と教えられます。

1.「 歌劇≪月の世界≫から 第1幕 アリア:「人には分別があります」 (フラミーニア) 」の指揮は中々フレッシュだな、と思ったらハーディングなんですね。有望そうな指揮者はそうごろごろしていません(笑)
プティボンの声は、低音では勿論、高音でも良い意味で人間臭さが残っている所が好きです。

2. 「コンサート・アリア:「私はあなた様に明かしたい、おお、神よ!」K.418 パスクワーレ・アンフォッシの歌劇≪無分別な詮索好き≫への挿入曲」 でも、高音では叫びになってしまう人が多い中で、最高音でも常に表情が付いています。
声が伸びやかな上に、声量で押しまくる、というような所がまるで無く、CDで聴くと、徹底的に内容で勝負している、声楽家だというのが分かります。

3. 「歌劇≪魔笛≫ K.620から 第2幕 アリア:「地獄の復讐が我が心に煮えかえる」 (夜の女王) 」もこんな可憐な夜の女王は稀です。気合で一気呵成に出されることも多い、高音部のニュアンスが一音一音違うことが聴き取れます。

4. 「歌劇≪フィガロの結婚≫ K.492から 第4幕 カヴァティーナ:「なくしてしまって…あたし困ったわ!…」 (バルバリーナ)」と5. 「歌劇≪フィガロの結婚≫ K.492から 第4幕 アリア:「さあ、おいで、遅れずに、素敵な喜びよ」 (スザンナ)」は中低音域中心の落ち着いた曲。庄司さんのヴァイオリンも、一音がアナログに変化して行くのが楽しいのですが、同じ楽しみを味わえる声楽です。

6. 「歌劇≪ルーチョ・シッラ≫ K.135から 第2幕 レチタティーヴォ・アッコンパニャートとアリア:「行って下さい、急いでください-ああ、いとしいひとの」 (ジューニア) 」は取り乱しつつも、意志的にコントロールされている感じの、表現に痺れます。外に表現したり、内に籠ったり、自在です。後半の高音はずっと伸びても、劇的に澄んでいます。
それにしても、ちいさい頃のモーツァルトは、時に凄いですねぇ。

7.「 歌劇≪ルーチョ・シッラ≫ K.135から 第3幕 アリア:「死のこの上ない不吉な思いのうちに」 (ジューニア)」は暗い表現から始まりますが、プティボンさんが歌っていると、吸い寄せられるように引き込まれます。 心ある所に色気あり、なんて言ってみたくなります。

10. 「歌劇≪アルミーダ≫から 第2幕 アリア:「憎しみ、激情、恨み」 (アルミーダ) 」は題名の様な激しさ。圧倒する力があって、聴いていて楽しいです(笑)

14. 歌劇≪アルミード≫から 第3幕 アリア:「ああ!もし自由がわたしから奪われねばならぬとしたら」 (アルミード) は恋の歌ですが、放たれる感情に、常に抑揚が付いている所が好きです。プティボンが表現する恋愛が、大人の恋愛であることを示しています(多分)とはいえ、そこにある気持ちは少女と変わらないのです(これも多分)

15. 歌劇≪ツァイーデ≫ K.344/366bから 第2幕 アリア:「虎よ、その爪を研げ」 (ツァイーデ)は畳み掛ける歌唱。小刻みに震えながら変化する管弦と溶け合っていて、歌があって、管弦があって、というのとは一味違う感動を起こさせます。歌が管弦を包み、管弦が歌を包んでいます。
熱っぽく突き進むかと思えば、分からないくらいの一瞬、静かになる音楽で、趣き深いです。

16. 歌劇≪アルミード≫から 第5幕 アリア:「不実なルノーはわたしを捨てた」-レチタティーヴォと後奏:「あの人非人がわたしの力に抑えられていたとき」 (アルミード) はハンなんていう言葉が丁度いい感じの、底から滲み出てくるような歌唱。この前食べた韓国風焼肉はおいしかったなぁ。
静脈の血の色を思わせるような、衝撃が正面から迫る、ぴりぴり来る音楽です。

プティボンはモーツァルトが特に上手いと思います。微妙な感情を伝えてくれると共に、存在には、冷たい水を一気飲みした時のような爽やかさがあります。
ハーディングの指揮も良く、業界を引っ張っていく指揮者としては心もとない人ですが、普通を基準にしてしまえば、見事な指揮者です。とっても良いCDだと思います。

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