私は民族音楽ファンで、各地の音楽にはそれぞれ違和感があって、それが楽しみのもとになるわけですが、そんな中で殆ど唯一、違和感が楽しみに変化しきってくれない楽器が、パイプオルガンです。
毎度、司馬遼太郎さんは良く、ヨーロッパの中心には神というフィクションがある、といっていましたけど、そのフィクションを現実に屹立させるための装置が、パイプオルガンなのだと思います。(仮にフィクションだとして)そんな特殊な使命を負った、やや大げさな楽器なのではないでしょうか。
屹立する神よりも、小さな祈りを選んだのが大中寅二といえる、かもしれません。
「トッカータとフーガ ニ短調 BWV565」は薄味気味。明晰なパイプオルガンで、バッハの書いた音の配置が良く分かる感じだと思います。
「トッカータ、アダージョとフーガ ハ長調 BWV564」は真ん中のアダージョの荘重が中々良かったですけど、速い曲になるとそっけなさが先行する感じですね。
このCDの目当てはモーツァルトの「アンダンテ ヘ長調 KV616」。この曲は好きなのですが、メジェーエワさん版しか持っいないんですよね。
メジェーエワさんはクナッパーツブッシュの影響を受けた、ユニークな芸術家なのですが、この曲に関しては、もっと曲そのものの地の良さを聴きたいので、他のCDを探していた所でした。
自動オルガン向けの作品ですが、演奏者の衒いのなさが自然で、中々良いのではないでしょうか。ただ3分台は、それでも表情が付きすぎているのかもしれません。もうちょっとそっけなくても良いくらいかも?やはり明晰な演奏で、グロッケンシュピールみたいな感じに聴こえて、面白いです。
ヴィエルヌの「24の自由な形式の小品」は、対位法が綺麗な、キャンドルを思わせる小品。
「子守歌」は悲歌のシンフォニーを予感させるような、厳粛で親しみやすい美しさ。
ラインベルガーの「ソナタ第4番」のマニフィカトの旋律(というらしい)は、キリスト教徒がもっとも大切にしている感情が込められているようです。
全般的に厳かでひっそりした曲で、オルガンの魁偉な感じが緩和されていると思います。やっぱり日本人として聴きやすい演奏なのかも?
3分30秒辺りからの審判に向かっていくような旋律は、キリスト教文化の毒が充満しています。
CDとしては最後の二曲が良かったとおもいます。バッハはメカニカルに過ぎたような気がします。
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