板橋区立美術館 江戸文化シリーズ No.25 板橋区立美術館開館30周年記念 御赦免300年記念 一蝶リターンズ ~元禄風流子 英一蝶の画業~ 後期

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一蝶ファンなので、行って参りました。リターンズ、という題名が付いていますけど、流罪からの恩赦のことだそうです。流罪になった理由は不明だそうで、幇間として調子に乗り過ぎたためではないかとも言われています。自重すれば良かったのになぁ、と思えばさにあらず。静かな三宅島で飛躍した様で、結局伸びる人はどこに居ても伸びるようです(笑)

NHKで取り上げられたようで、そういうつもりではなかったんですけど、放送前で空いていてありがたかったかも知れません(笑)
作品リストを見て思うのは、所蔵先が空欄の場所が多いことで、これは多分個人所有ということでしょう。新島(に多く残っているらしい)から気合で引っ張ってきた展覧会のようです。

「鉢廻図」は口を起点に長い棒で鉢を廻す芸人の絵。日本のパスポート第一号が大道芸人だったのは有名ですけど、日本の大道芸は色々発達していたらしく、一蝶の芸人に対する親しみの視線のお陰で、その一端を垣間見ることができる絵です。

「徒然草 御室法師図」は徒然草の瓶が抜けなくなった、有名な話を描いたもの。

「桃に立雛図」はカクカクとしたお内裏様とお姫様が、これまたぎこちなく描かれた桃の枝に仲良く座っている図。素朴な図に純情?とおかしみが香ります。
「鍾馗図」という漢画系の雄渾な線で描かれた絵もありましたが、趣向によって筆致をがらっと変えられるのも、一蝶の特徴のような気がします。

一蝶の名前は荘子の胡蝶の夢から取ったらしく、「雑画帳」の「荘子胡蝶の夢図」が、寝ている荘子が台に向かって潰れるような、身心脱落した感じの図。K-1の武蔵と違って名前と画風が高いレベルで一致しているのが、一蝶の面白い所だと思います。「蟻通図」とかなかなかぼやっとしていて、趣がありますが、広重の「霧中朝桜」とかと比べると、何か現世のごもごもした所も引きずっているような、印象を受けます。

仏教関連の絵も多く「不動図」はお不動さんが滝行をしているんですが、背後の火が消えないように取り外してから滝に入っている所が、ユーモアのポイント。
「達磨図」は眼光が鋭すぎて壁に穴が開き、「四睡図」は眠っている所を描くのが通例の画題を、起きた瞬間を描いた意欲作(多分)。「一休和尚酔臥図」は一休和尚が泥酔して、寝ている所を描いた図。「六祖大師図」では六祖が何故か臼の上で坐禅をしています。
禅画にユーモアということで、真っ先に仙厓さんを思い出したのですが、何か違和感が。仙厓さんのは観た後に軽い感慨の様なものが起こるんですが、それが無いんですよね。一蝶は芭蕉の弟子の其角と親交が深かったそうで、仏教的なユーモアではなく、俳諧的なセンスで描いているからではないかと思いました。これもまた面白い角度の崩し方です。
俳諧では
おのづからいざよふ月のぶんまわし
という作品が、コンパスを使っても上手くかけない月を、いざよっているという風に捉えた、不完全もなのを味に転化する日本的で微妙に前向きな作品。晩年手が不自由だったそうです。

一蝶は俳諧師としてもなかなか本格的だったようですし、その俳画の系譜は蕪村に繋がるのだそうです。又兵衛・師宣の次の世代の絵師として、歴史的に確りとした位置にいるようで、とりとめの無いイメージの方が強かったので、勉強になりました。

「朝妻舟図」は白拍子を端正に描いたもので、一蝶は白拍子を描いたものが多かったそうです。白拍子はいわば遊女で人と神の間に居る者とされています。意外とさっきのような仏教の絵も多いですし、一蝶は人と神の間のような領域に非常に強い絵師だな、という印象がこの展覧会を観て一番強かったです。

「張果老・松鷺・柳烏図」は瓢箪から駒の話を描いたものですが、瓢箪からうにょ~っと飛び出てくる駒を描く、薄墨の遣い方が上手かったです。

「布晒舞図」は展覧会の顔になっている、踊っている図。こういうたゆたうような絵は、天下一品です。布晒舞って今では観られないんですかね?
同じく重要文化財の「四季待図巻」はこの前出光で観ましたけど、そのとき観たのは今回出されていた場面の一番左だけ。馬から下りる人と支える人の雰囲気が微笑ましかったです(笑)

「七福人図」は解説にシチフク・ミュージック・バンドとあって、楽団風の七福神です。それにしてもこの解説にしてもそうですけど、板橋区立美術館は解説が凝っていて凄いです。冊子の研究者が書いた文章の中にも、面白い企画をやることで有名な美術館、という事が書いてありましたけど、士気の高い美術館のようです。そういえば玄関からして「素通りしないで!!」と書いてありましたっけ。
所で、江戸時代は音楽に溢れていた時代だったようで、一蝶の絵には時代の空気が入っています。昭和の橋本國彦・信時潔の様な時代の空気を作った作曲家が居たに違いありません?

「風俗図巻」は英派の手本だったらしく、太鼓を叩いている人や猿遣いが描かれていて、人を楽しませる職業に対する誇りが滲んでいるように感じます。一蝶の絵は工房で生産されたものも多いらしく、これは全部自分で描きました、とわざわざ作品について語っている文章があるそうです。

運良く後期に行ったので、一蝶の肖像も観られたのですが、似た感じなのは、売茶翁辺りでしょうか。覇気があるわけでもなければ、傾いている感じもなく、しかし普通でもない、といった中間的な雰囲気に奥深さがあったかもしれません。

雨の日に迷いながら到着したのですが、その価値は十二分にあった展覧会でした。中規模でしたが、二度と観られない展覧会のような気がして、名残惜しくも美術館を後にしたのでした。
尖った所のある展覧会で、その意気には頭が下がります。ありがとうございました。

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