伊勢物語は堂々たる日本の古典ですが、書かれている中の人は、なんというか、一週間単位で付き合ったり別れたりする高校生とあんまり生態が変わらないですよね(笑)近年は復古調だということでしょうか。やけに約束事が要求される所以外は歌もメールの遣り取りと殆ど同じといって良いでしょう。
とはいえ、違う所は在原業平?の返歌の巧みさですね。相手の言い分を上手く歌の中に織り込んで、認めた上で返して行く、ということでビジネスの場なんかでも生きるかもしれません(笑)古典化されるに足る男の心根は、流石に現代にはなかなか無いものだといえるでしょう。芯が無いからこその巧言なのかもしれませんけど(笑)
後は心理描写も率直で、はっとさせられる所も多いのが良い所です。
会場は流石に「王朝の恋」だけあって、仙厓さんの時とかより圧倒的に女性が多く、カップルも多かったです。小声での会話は是非遠慮していただきたいものです。
最初にあった「見立て業平涅槃図」が面白い絵でいきなり本気で笑わせに来たと思いました(笑)釈迦が横になって臨終する時に、その周りを弟子達が囲んでいる絵のパロディなんですが、周りを取り囲んで泣いているのが全員女性で、しかも尼さんから貴族平民熟女と幅広く、果ては天女まで観に来ていました。男子かく在るべし、というのは妥当な感想ですが、作者の英一蝶にも俄然興味が沸いて来ました。今度調べてみようと思います。古典の展覧会ですけど、肩肘張らずに見ていきましょう、という主催者側のメッセージだと受け取りました。
「古今集切」はやけに上手い筆跡で、平安時代の貴族はみんなこんな感じなのかなぁ、と思ったら小野道風が書いたものだということで、それは上手いのは当然です(^^;)
山種美術館から借りて来た「伊勢物語絵巻」は中村岳陵を始めとした昭和の絵師の合作ですが、丁寧で素直な絵で非常に良かったです。今回の展覧会は近代の画家の物に良い物が有りました。山口逢春の「扇面流し」も、隣の岩佐又兵衛の「くたかけ」と比べるとややデザイン的な感じも有りましたが、波間に散らされた数々の扇面に華美かつ古典的な美しさがあって、近代らしい良い品でした。
今回はメインの一連の物に俵屋宗達の伊勢物語図色紙がありまして、題材が伊勢物語とはいえ、宗達らしい力強さもある絵だな。と思って眺めていたんですけど、デザイン的な面が強くて余り妙味が感じられない所もありました。展覧会の出口にあった解説によると、工房で作られた作品だとの事で、ああ、そういうことかと思いました。宗達は「月に秋草図屏風」が素晴らしい、といいますか驚きの作品で、月が真っ黒でしかも滲んでいるんですよね。これが作意だとしたらとても大胆です。純粋に美術的に観ても、下部の秋草の精密さが異様な月を受け止めていて見事でした。
酒井抱一の「八橋図屏風」がありまして、型紙h…じゃなかった琳派らしい構図で、屏風らしい屏風でした。尾形光琳の「富士図扇面」というものもありましたが、絵がちょっと痛んでいて、むしろ鈴木其一の装丁が丁寧で控え目なもので、光琳への畏敬を感じ取れる様で心に残りました。
絵以外の小物では「筒井筒蒔絵硯箱」が背景の金粉の散らし方が雪の如く絶妙で、良かったです。それにしても筒井筒の話は幼馴染萌えという事で、現代の眼からみても結構良いように思われます(笑)
最後の部屋には「伊勢物語屏風」が各種置いてあって、いろいろな場面が描かれていました。正体不明のひじきもとは如何なるものか、非常に気になっていたんですが、箱の中に黒い紐が何本か描かれてましたので、あれがそうなんでしょうか?(^^;)それとも女性の顔の下あたりに黒い四角が描いてあったのでそれがそうなのかもしれません(笑)あとは四十一段の紫の、で姉妹の内で貧乏な男のところに嫁いだ人が、たらいを頭の上に乗せて運んで働いているのに共感しました(笑)いや、私は重い物を持つ時はこの持ち方が好きなんですけど、あんまり他の人はやらないんですよね・・・。
伊勢物語の楽しさ、画題としての魅力が伝わってくる展覧会でした。伊勢物語は源氏物語よりも成立が古い本ですし、書かれている内容には何か浮世離れしたものを感じます。説教臭くも無く、そこにあるのはただ人の心だけ。そんな幻想的な世界に一時、浸らせていただきました。ありがとうございました。
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