江戸東京博物館 特別展「ボストン美術館 浮世絵名品展」

#その他芸術、アート

券を頂いたので行って参りました。
最初は古めのものからで、初代鳥居清満の「初代嵐音八のあさかの沼太郎」の四肢を大きく使った見得と、調理される鮟鱇の水を飲まされて膨らんだ姿(多分)がユーモラスでした。

今回一番楽しかったのは鈴木春信ですね。鈴木春信といえば、あの様式がかった顔なんですけど、それでも凄い美人に見えてしまう所が、春信の筆力です。本人が大和絵師と称していたそうですが、やっぱりそういう王朝文化的なたおやかさを一身に纏っている感じです。春信といえば、錦絵の元祖ですから、浮世絵の根っこには王朝文化があると言えます。浮世絵は民衆文化の勃興の表れであると共に、前時代の遺産を肥やしにして、そこからにょきにょきと枝葉を伸ばした文化でもあるんですねぇ。

「(見立三夕)定家 寂蓮 西行」の真ん中の人や、「女三の宮と猫」がたまらない出来栄えで、真の雅が導くこまやかさが充満していました。とてもきゅんとするんですが、どうしたものでしょうか(笑)

礒田湖龍斎は「道成寺」の白拍子の華やかで不気味な風情が圧巻でした。
司馬江漢は「広尾親父茶屋」のミレーに広重の奥行きを加えたような、農村風景が素晴らしかったです。偽物の多い人だそうですが、本物には偽物と隔絶した味があります。
鳥文斎栄之は評判の町娘を描いた「三美人」が良かったです。特徴を出そうと腐心している感じと、娘達が持っていただろう華やぎが絵を通して伝わってきます。

玉川舟調という人の「四季子供あそび 秋」は幼子の横で、母親が団子を練っている絵なんですが、これが極めて睦まじい空気を醸している絵で、外人さんが感嘆したという、江戸期の女性の子供に対する愛情が、良く伝わってきます。初めて名前を聞いた人ですけど、他の絵も見てみたいですね。

写楽は「二代目嵐龍蔵の金貸石部金吉」が流石の表情で、保存状態が極めて良い実物ならではの雰囲気があって、見得からどーんと力が飛び出てくるようでした。
ほぼ時代順の陳列だったのですが、ここら辺から絵の様式がだんだん豊富になってきて、時代が近代に近づいて来たのを感じました。特に役者絵の表情の描き方が豊かになっていってるので、まさに画期的な画家だったのかもしれません。
歌川国貞の「大当狂言ノ内 梶原源太(三代目坂東三津五郎)」は写楽に敬意を表して描かれた絵だそうです。

券に刷られている歌川国政の「市川鰕蔵の暫」は、抽象表現に踏み出したような逸脱が良かったです。この人は実に特徴的な作家で、まさに夭逝した天才絵師といえましょう。

北斎のお馴染みの作品も状態が良く、富嶽三十六景も受ける印象が結構異なります。「尾州不二見原」の練達の職人の格好良さに、痺れ直しました。
肉筆画では溪斎英泉「蛍狩美人図」が良かったです。変わった格好で女性が頬を染めている絵で、英泉はちょっと活発な感じの女性を描くのが得意な様な気がします。

歌麿は自然物を写生した版本の三点が良かったです。前に太田美術館で見たときも鮮烈でしたけど、歌麿の写生画は綺麗で生命力がある感じで素晴らしいです。

広重もどれも素晴らしかったです。珍しいのは若い頃の「三枚続 源頼光一代記」で、国芳が描いた様な怪しく迫力のある絵でした。
お馴染みの「名所江戸百景 両国花火」や「阿波鳴門之風景」とか、本当に痺れます。
スケッチもたくさんあって、色が無い分、筆勢や込められた意図を感じ取れて、楽しかったです。
「和漢朗詠集(月下舟遊)」というのもあって、そそり立つ岩なんか、劇画的な厳めしい迫力があって良かったです。和漢朗詠集とか、当時の江戸人は当然のように読んでいたんでしょうねぇ(汗

国芳は「東都御厩川岸之図」が広重と違った、リアルな海のぬめりの匂いがしそうな風景画で、個性が出てました。「讃岐院眷属をして為朝をすくふ図」が巨大な魚に白い天狗、と国芳的な世界でよかったです(笑)
今月の中央公論でですとか、最近の日本は幕末と似ている、なんて言われたりしますけど、当時の社会不安が招いた人心の荒廃による猟奇志向はかなりのものだったようです。作品の性質や誠実さはともかくとして、そう考えれば、国芳と現代の07th-expansionとかは、社会において似たような役割を果たしているのかもしれません。

美人画の「梅の魁」は髪の生え際が素晴らしい、と書かれていましたが、まさにマニアの視点で、私の感覚から言うと、江戸の人は分かっていると言わざるをえません。彫師も擦師も良い仕事です。

本当に保存状態が良いものばかりの展覧会で、とても楽しかったです。仙厓さん以来、珍しく図録を買ってしまいました(笑)感動の相当部分が蘇る感じで、しみじみと眺めています。いや、本当に良い展覧会でした(笑)ボストン美術館恐るべし。

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