この前のアリスさんの情熱大陸は素晴らしかったですね(^_^)良い意味で素朴な人だなぁ、というのが一番の感想で、舞台に出て行く姿も自然体。
情熱大陸には、かなり繊細な感じで舞台に上がっていくような人も多いんですけど、そういう人たちの中には、良くない意味で芸術家の人も結構いるのかもな、と、ふと気づかされました。
とても印象的だったのは、勉強の仕方が賢明なのではないかという事です。
昨年の新聞の書評欄では、本を読むことのマイナスに触れられることが結構ありました。それはそれ程新しい考え方ではなく、老子の「絶学無憂」と大体同じ内容だったと思います。
これは学問を断つのではなく、無用な事を学ばないということで、無用なこととして「「美しい立派なもの」と「醜い劣ったもの」との区別をはっきりさせるのが、「学ぶこと」の内容にあたる。」とものの本(金谷治「老子」76ページ)にあります。
これを音楽に当てはめると、宇野功芳先生と遠山一行さんは対談で、アシュケナージが音楽家としてつまらなくなったのは、西側に来てこういうスタイルで弾くべきだという様な技術的情報が入ってしまったからだ、といっていました。
この技術的情報(に捕らわれること)が音楽において絶った方が良い「学」にあたると思います。
一方学ぶべきものは何か、といえば、ピアノそのものと感性を育てるような学びではないかと思います。
アリスさんは音楽は無手勝流な所があって、番組でも自分で考えて解釈を膨らませていくタイプの人だということが分かる感じでした。一方で勉強しないかといえばそうではなく、岡本太郎の展覧会に行って、悩んでいたりするんですよね。これは非常にいい方向を向いて、向上されているのではないかと思いました。
正しい学びには心が付いて来ます。道元もいった、良寛さんの漢詩にもある、努力の方向性を間違わないように戒める言葉に、轅を北にして南へ向かわんとするがごとし、というような言葉があるのですが、アリスさんは着実に南に向かっている人だなと思いました。迷われているようですけど、いずれ目的地に着かれる事も、あるのではないかと思います。
第1曲の冒頭からルバートを微妙にかけながらガンガン弾いていて、上がり馬のようですけど、アルゲリッチより澄んだ雰囲気もあるところが、個人的には好きです。
流麗なアルペッジョに入るところでの切り替えも、すっぱりしています。
第3曲は得意の?沈潜した表現が生きています。ひっそりとした弱音が、霊妙の世界に誘います。
第4曲の砂煙の舞うような表現も、埃っぽくなく、ふんわりと音が散っていきます。綿菓子といいますか、こういう所を聴くと、筋のいい人だなぁ、と強く思います。
後半はユキヒョウがじぐざくと山道を駆け上がるような、細かい速度の変化に、迫力がありますが、造形は保たれていると思います(笑)
第5曲は昆虫が這い回るような、ユーモラスな楽章ですが、この演奏には、ねずみ花火とのどかな船旅が合わさったような、印象があります(笑)ここでも迫力と切れ味が、香辛料になっています。
第6曲の真ん中辺りでは左手が堂々としていて、太陽が微動だしないかのごとく、沈んでゆくようです。こういうのも中々魅力だなと思います。
第8曲では4分50秒辺りも綺麗な所ですが、旋律を濁らせる感じで、奇麗事にしていない所が胸に響きます。
第12曲の不意に温い風が吹きぬけるような、おどろおどろしい表現も上手いです。
ラ・カンパネラはアリスさんのは、独特の緊張感があるんですよねぇ。精緻な歯車を精緻に崩していくといいますか。
おわりの東欧っぽい、ぼほぼほした表現も、真率で好きです。
部分部分を優先している様でいて、ずっと聴いていて、総体としてじわじわっと心に効いて来る音楽だとおもいます。ボディーブローの連打なのである(何
ただ、今回聴いてみて、まだパレットの音色は、そこまで多くないなと思いました。音色が多ければ良いとも、限らないことは限らないのですが(^_^;)ムズカシイ
聴いているうちに、すぐに時間が経ってしまったCDでした。
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