戸栗美術館 古九谷名品展~躍動する色絵磁器~ その8

#その他芸術、アート

行って参りました。

まずは古九谷について書いてあって、後藤才二郎という人が創始に関わったとのこと。面白いのは技術を妻子持ちにしか教えなかったらしく、これで情報漏洩を防いだのでしょう。
この元祖九谷焼は大聖寺藩という加賀藩の支藩で焼かれていたらしく、後世復元し難かったのも本藩で焼かれていなかったことも関係しているでしょうか。

復元を目指した再興九谷はいくつかありますが、今回は吉田窯というのがクローズアップされていて、良い作品が非常に多いです。

たとえば「稜花鉢」は出来が良く、艶めいていて繊細。余白を生かした侘びもあって、状態も良いです。

豊田伝右衛門という文人肌の豪商が出資して九年間焼いたそうですが、資金が続かず止めになったとのこと。教養高い趣味人が作っているという点では乾山を思わせ、完成度の高さにそういった志向を感じさせるようなところがあります。

九谷の「塗埋手」と呼ばれる特徴的な緑などで塗りつぶした作品は、素地の悪さを隠すため、というのが良くいわれる説ですが、再興九谷の吉田屋に関しては解説によるとあくまで美意識を追及して塗りつぶしたのだろうとのこと。

明治に入ると欧米からの色々な影響を受けますが、「細字」といって超絶技巧を競うようになったらしく、明治の美術品には美的感覚に従ったというより超絶技巧を目指したタイプの工芸品が結構あります。
前にお話した「オリンピック精神」

Bunkamuraザ・ミュージアム レオナルド・ダ・ヴィンチ美の理想 その2
吉田秀和が亡くなったので、識者の意見も聞いてみようと、久しぶりにレコ芸を読んだのですが、本人の文章は載っていたのですが、それについての記事は無し。ついでに宇野先生の文章を読んだら辻井君を絶賛していたので、時代の移り変わりを実感。やっぱり...

の様なものが陶芸界にも影響を与えているのではないでしょうか。

この日の特徴は非常に器の種類が多かったこと。古伊万里専門美術館というのは相当マニアックだと思うのですが、今回の作品の幅は驚異的で、色とりどりのとても楽しい空間になっていました。

最初の「色絵 葡萄鳥文 輪花形皿」は古九谷様式の逸品。どちらが下か難しいらしく、パンフレットと違って今回は葡萄の重力に従って展示したとのこと。そもそも立てかけられるのを想定していないんですかね?
こういった日本のカラフルな磁器は伊万里に始まるらしく、17世紀中頃に中国の技術を導入してからなのだそうです。

「色絵 牡丹文 松皮菱形皿」は白いお皿なんですけど古九谷様式。なんでも輪郭線があるのが一つの基準らしく、「色絵 山水文 富士形皿」は同じような感じなのですが、輪郭線が無く、金銀がふんだんに使われていて、むしろ野々村仁清(しかし仁清って変換で出てこないんですね)の京焼の影響を受けているということで、古九谷様式には分類されないのだそうです。

他にも大き目の皿などもあって、ここらへんは菓子などに使われたとのこと。

作品ナンバー11~13は小皿のコーナーで艶めきが珠玉の美しさ。古九谷様式は加賀百万石の焼き物と言われていたので格式が高くて値段も高かったと解説にありましたが、やはり高雅な所があって、当時の人の美意識に適っていたから高かったという気もします。

書でも、良品には例えば小野道風(しかし道風って変換で出てこないんですね)の書であるという伝来が付いていて、実際は違ったりするのですが、大体作品内容が名前の格と対応するみたいなんですよね。同じようなことが古九谷といわれるものにもあるのではないかと思います。

14番からは主に刺身用だそうで、ダイナミックな作品群。

22番の「色絵 石畳文 皿」は波がひしゃげたような模様が面白く、こういった黄色は遠くから観ると金にみえる様に企図されているとのこと。

「色絵 渦文 皿」は遠くから見ると茶色に塗りつぶされていますが、近寄ると小さな唐草文様で埋め尽くされています。

「色絵 網干文 皿」は承應三年の年号が書いてあって1653年の作と確定できる貴重なものとの事。ひび割れているのですが、それを一々廃棄していたら採算が合わないということで、緑の釉薬で補強してあるのだそうです。絵柄は山のようなものが抽象的な感じで描かれていて、丁寧なつくりで非常に良いものです。

31番からは古九谷様式では珍しい瓶の展示。「色絵 葡萄文 瓜形壷」は7つに区分けされていて、これは奇数は吉祥数であるということが意識されていたとのこと。駄洒落だけが江戸文化です。

36番から40番は染付で、今は古九谷様式は色絵だけということになっているとのこと。色絵と職人が違って染付けと色絵は絶対に絵柄がかぶらないのだそうです。

「染付 人物皿 捻花皿」は海老を取っている蜆子和尚という仙人を描いたもの。蜆(しじみ)を取って隠棲していたらしいのですが、後世には仙人扱いされているとのこと。

あさり売りだったからつけたという、幕末の剣術家の浅利又七郎の名前も、意外とこういったエピソードが元ネタになっているのかもしれません。

しかし、「開国への道 」((全集 日本の歴史 12) 平川 新)に農民剣術の興隆が描かれていますが、こういうエピソードからも意外と身分に関わりなく剣術で身を立てることが出来たことがわかりますよね。そしてそれをあんまり気にしない社会の状態が存在したということですね。

こういう海老を取ってお坊さん生活、というものが高雅なものとして日常雑器に込められている、というのは良い文化ですよね。

「染付 花鳥文 皿」は鷺が中央に大きく描かれていて、ざっくりしています。

「色絵 牡丹文 捻花皿」は白いのですが、裏に角福のマークがあって緑が塗られていることから古九谷様式であるとのこと。

43番からは赤い作品が多く、輸出用であるとのこと。17世紀中盤に技術が向上して白地が良くなり、中国産に代わって輸出できるようになったらしく、国際競争が高品質をもたらしたようです。
中国との競合を避けるために、ここら辺の焼き物は日本独自の着物の柄などを使ったものが多いのだそうです。

それにしても、しばしば鎖国史観が批判される時に、それは西洋のほうだけを向いた言い方だ、といわれますが、伊万里の展覧会を観ていると、そちらの方面すら鎖国と表現するにあたら無い様な気がします。

鎖国という表現の中に、長く国を閉ざしている間にまわりが進歩して取り残されてしまった、というニュアンスが含まれていますけど、例えばペリーが乗ってきた蒸気船は当時開発されたばかりで、ペリー以前は欧米でも帆船でした。

機械産業は今まさに発展し始めた時でしたし、欧米でも民主的な国は限られていました。戊辰戦争の帰趨に大きな影響をもたらした有名なミニエー銃は1849年開発で、それ以前のゲベール銃は火縄銃と大して性能が変わらないらしいんですよね。

医学については漢方の優位性を前も書きましたけど「西洋医学が、病気の原因を特定して治療法を確立し、あるいは予防法をも手に入れることができたのは、一九世紀後半になってからにすぎなかった。」(近代ヨーロッパの覇権 (興亡の世界史)福井 憲彦 241ページ)らしく、科学技術も医学も勃興期だったんですよね。

幕末の日本に伝わったのは同時代の世界の変革の衝撃波であった、という認識は江戸時代の外交を振り返る時に重要なのではないでしょうか。

明治のお雇い外国人だったベルツとかがいう、日本は400年遅れている、といったような言説を、日本は例えば丸山眞男や司馬遼太郎といった日本をリードする知識人で、似たような感覚として自分の中に取り入れてしまっていた人が多すぎたのではないでしょうか。

「色絵 桐葉唐草文 瓶」は西アジア的。「色絵 丸文 蓋物」は銀が伊万里に使われてた短い期間の作品で、金銀がふんだんに使われています。

「銹釉色絵 鳥文 輪花皿」は黒に覆われていて「銹釉色絵 獅子牡丹文 八角皿」は艶やかな茶色の中に茶道具の棗の様な文様が浮かびます。「瑠璃銹釉 瓶」は銹色で、変っています。「瑠璃釉染付 網干文 瓶」は青と灰色の中間のような色で、鄙びた風情。「辰砂 柘榴文 捻花皿」は辰砂の色が鮮やかで「蕎麦釉色絵 藤文 皿」は蕎麦釉独特の色。

「青磁瑠璃銹釉 鶴亀松竹文 三足皿」は透かし彫りが施された超絶技巧の皿で、様々な色が油絵の厚塗りのようにふんだんに使われており、特に鶴周辺の白は志野の釉薬を思い起こさせるおいしそうな味わい。伊万里の釉技の広がりに改めて驚かされます。

「青磁 菊花文 葉形皿」は型で作るタイプで、マイセンなども型ばっかりだったと思いますから、あちらではこういうのが喜ばれたのかもしれませんね。

「白磁 瓢形瓶」は美しい白磁。ナチュラルメイクの解説のお姉さまがいうには、某陶芸家は出来の良いのは白磁にして、形が崩れた物は色絵にしたということで、とてもよくわかるとのこと。

第三展示室は染付などを紹介する部屋で「染付 蟹文 輪火皿」の解説によると、17世紀中頃に素焼きの工程を入れることで強度が増したとのこと。

「染付 磯尽文 輪花鉢」は草花や波紋が細やかな神経を添えられて描かれた大作。

柿右衛門様式の「色絵  竹虎梅樹文 輪花皿」は、つば縁に平らな見込みを持っていて、これは西洋の生活に合わせてこういうつくりになっているとのこと。柿右衛門は西洋の嗜好にあわせて生み出された日本を代表する工芸品です。

それにしても、年表をみるとちょうど吉宗の時に、中国との競争に敗れて伊万里の輸出が減っていて、彼は貿易の改善に腐心した将軍ですが、伊万里の埋め合わせという面もあったのかもしれませんね。

「色絵 赤玉瓔珞文 鉢」は瑠璃地に金の装飾が美しい壮麗な作品。「色絵 鳳凰文 皿」は鳳凰の尾を上手く構図に使っています。

ヴァリエーション豊富な良品で埋められ、ずっと観ていてより引き込まれる展覧会でした。真面目で詳細な解説も非常に興味をそそられるものでした。ありがとうございました。

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