東京国立博物館 平常展 特集陳列「猿」「日本の仮面 舞楽面と行道面」その8

#その他芸術、アート

特集陳列「猿」では「十二神将立像 申神 京都・浄瑠璃寺伝来 鎌倉時代・13世紀」が流石の迫真の像ですが、解説によると猿らしい滑稽味も感じられるとのこと。十二神将はそういうものも加味して彫られるんですかね。

この前新聞で運慶のコラムがあって、東博にある二寺の十二神将像が運慶作ではないかという説が出ている、とありましたけど、おそらくこの淨瑠璃寺のものと仏像のコーナーに今飾られている曹源寺のものでしょう。どちらも物凄い躍動感を持つ迫真の作品で、少なくとも運慶と同等程度の力を持つ仏師の作であることは間違いない様に思います。

日本の猿は牧谿のものが一つの形になっていて、下っては「十二支図(模本)原本=森祖仙筆 明治14年(1881)、原本=江戸時代・18~19世紀」と今回出ていた森祖仙のものの影響が強いとのこと。

「猿猴図 朝鮮時代・18世紀頃」というのもありましたけど、朝鮮のものも日本の絵画や工芸に大きな影響を及ぼしているので、大規模な回顧展がもっと開かれて良いもの(見逃した)

もう一つの特集陳列は「日本の仮面 舞楽面と行道面」で東方Projectの秦こころちゃんが流行っているときにちょうど良いタイミングです?
こころちゃんは感情が豊かなのに表情が変わらないという、面白いキャラクターですよね。

この特集陳列のお面も聖俗老若男女衆生仏鬼と揃っていて、感情も喜怒哀楽から微妙にして幽玄なものまであり、これであらゆる属性に変化することができます。

人の顔ではここまでドラスティックに変化することはできません。

精神学者が能に迫った有名な文章があって、能はまったく動いていないようでも感情が高ぶる場面になると心拍数が200ぐらいまで上がるそうなのですが、超有名ハリウッド女優は演技をする時に心拍数の変化が一切無かったのだそうです。

能は内面で感情を表しているわけで、逆にいうと心拍数を読み取れるくらい感性が優れていないと何もやっていないように見えてしまうんですよね。現代はそこまで敏感な人はほとんどいないから、観客はそこまで入りませんけど、文化としての内容は非常に高いといえる。

橋下さんはお金の稼げない伝統文化の価値を疑っているのでしょうけど、お金を取れなくてもレヴェルが高いが故に理解されない、だからといってそのまま捨ててしまうにはあまりにも惜しい伝統文化というのは存在するのです。

しかし、神妙の域に入っている人もそうはいないですし、能の側にも改善の余地は多いにあります。

また、演技も相対的な評価ならまだしも、絶対的な基準で一流の名優の域に入ることは難しく、ハリウッドの名女優でもまだ、演技の深い世界に入っていっていないのだと思います。

普通の演劇でも本当に本物のレヴェルになれば、心拍数なども上がってくるだろうと思います。そして我々観客はそういったものを感じ取る能力を磨き上げねばなりません。そのような関係の中で観ていくと「本質の貯蔵庫」としての伝統文化、能楽の意義が観えてきます。

そして、こういう眼で能楽をみていくと、表面的には何も変わっていないように見えながらも感情豊か、という秦こころちゃんの性格はかなり能楽の本質を突いているように思います。
しかも現代的な感覚で観ていてとても面白く、能の現代的展開への示唆も大いに含まれているように思います。もし能・演劇系の関係者がいらっしゃったら、その2次創作も含めて参考にして欲しいと思います。

前に能のCDの感想を書きましたが

日本の伝統音楽 能楽
今週のxxxHoLiCは面白かったですね。中島誠之助さんが言うには、筋の良い素人は良いものは分かるんですけど、偽物が分からないそうです。プロは両方分かるそうで、今週のホリックは、四月一日に両方が分かることを示す台詞を言わせて、プロ筋の世界...

「室町の仮面劇 NOGAK」と副題が付けられており、洋風の香りを漂わせないと売れないのか、とやや嘆息したものですが、この深甚な世界はまさに世界遺産級なのです。

ただ、仮面は鼻が高いものが多く、どこか洋風の雰囲気もあります。

平安から鎌倉のお面が多く、前に杉山正明氏による元代のヌオシー起源説を紹介しましたけど、少なくとも仮面劇の伝統自体は相当古いですよね。

お面では「行道面 神母女 高野山天野社伝来 鎌倉時代・14世紀」がふざけた感じで面白かったです。

この日はカメラを持っていったんですけど、仏像や能のお面はカメラで撮ると、何かいきなり妖しくなりますね。本物はもっと素直なのですが、なんとかならないものか・・・・。

平常展の他のものでは「大黒天」が面白く、大黒天には財神的なものと、戦闘神としての大黒天がいるらしく、今回展示されているのはその中間的なものだとのこと。なかなかブラックな雰囲気で、腹黒商人の趣があります。

戦闘的な大黒神、など意外性があって東方Projectで取り上げたら面白いのではないかと思ったのですが、男神だった、と思ったのですがそういったことは関係なかったですね。

堂々とした「弁財天」もあって、宇賀神と呼ばれることもあるとのこと。技芸の神ですので、スポーツ選手は報ステの宇賀さんを信仰するべきですかね?

淨瑠璃寺伝来の「広目天立像」は相変わらず物凄い迫力。

浮世絵も立派なものが揃っていて「見立小野道風 鈴木春信筆 江戸時代・18世紀」はかえるがぴょんと跳ぶお決まりの画題を女性化したもので、柔弱にして瀟洒。この頃から東方Projectのような事をやっているのだな、と一瞬思ったのですが、あちらは小野姓の違う人ですね。

英一蝶の「雨宿り図屏風」も雨宿りをしようという群集に、美しさすら漂います。

他にも個性的な至宝が勢ぞろいでした。ありがとうございました。

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