9月30日(金) 東京オペラシティ コンサートホール アリス=紗良・オット ピアノ・リサイタル

#音楽レビュー

行って参りました!

早めに開いた今回の演奏会。

会場にはなぜかやたら華やかな人もちらほら。

中でも、報ステからお祝いの花輪が来ていて、その前で記念写真を撮っていた男女はテレビ関係者っぽい雰囲気が発散されていたのですが誰なのかまではわからず。

最初はラフな格好でプレトーク。

ルービックキューブはただの趣味なのかと思っていたら手を温める意味があるらしく、なるほどそう言われれば柔らかいタッチの開発に役に立ちそうですね。

ピアノを弾く以外でピアノを弾く能力を向上させる訓練ってあまりないと思うので、そういう意味でも意外性がありました。

家ではススキを栽培しているとのことで日本に住んでいると雑草だと思ってしまいますがそういう先入観は無いのでしょう。

しかし東京ではなかなかススキはみかけませんよね。ずっと東京に住んでいるとススキを知らない日本人が出来上がりそう・・・・・・。

今回の曲目は前半と後半で落差がある、これだけ落差があるのは初めて、とのこと。

プログラムはミニ写真集的ですが曲目に合わせた幻想的な雰囲気。今のお化粧とファッションは似合っていますね!

前半の

グリーグ:抒情小曲集より
グリーグ:バラード作品24~ノルウェー民謡による変奏曲形式による

ではアリスさんはまっしろなドレスで登場。と思ったらよくみると結構黄味がかったりしていて模様も複雑。全体としてクリーム色的な色味です。

ブルックナーみたいな神様志向ではなくて、あくまでおとぎ話のような雰囲気ということでしょうか。

グリーグのピアノ協奏曲は難曲でリストが初見でそれを弾きこなしたという逸話が有名ですが、それを踏まえてアリスさんは技術的に難しいグリーグにチャレンジしたくなったようです。

妖精と戯れるような曲という解説で、ひたすら明るく美しいパッセージが続きます。

常にさーっと森の木々から発せられる瑞々しい空気が身体を抜けて行くよう。

クラシックでもここまで暗い要素が無い曲というのも珍しい。明朗快活な人格者だったというグリーグの人柄が表れているのか、ノルウェーの冴え冴えとした空気が暗いものを排除しているのか・・・・・・。

アリスさんの極めて有機的なタッチがその夢見心地な空気を引き立てます。

良い演奏家の特徴は楽器の機械性を超えること。何か道具を奏でているような気がせず超自然的に聴こえることですが、そのことがグリーグの曲を物語そのものにしていたと感じました。まるでオーロラが煌めくよう。

曲集ですが曲調が一貫していて、すべてで全体が一つのような感じもしました。

ここまで起伏が無いとさすがにどうなのかとも思うくらいですが、それは後半のプログラムとのコンビネーションのフリ。

後半の

リスト:ピアノ・ソナタ ロ短調

ではアリスさんは一転真っ黒な衣装で登場して会場からはどよめきが。
と思ったのもつかの間、おじきをされて椅子に座ると今度は一転会場が真っ暗に!
演出で曲の暗黒度を強調しています。

横の人も見えないくらいで、ここにきて思えば前半の会場はやや明るかったと思います。

クラシックとなると出てきて弾くだけになりがちですが、もっとこういう外側の演出で盛り立てても良いと思う。それはハイドンの「告別」であるとか、伝統でもあると思います。曲の内容が引き立つならなおさらです。

アリスさんはロックが好きだそうですが、何かロックスターのような雰囲気で、リスト自体も同時代においてそういう存在だったように思います。

苦悩するようなパッセージも多いですがそれも現代のヴィジュアル系バンドのそういう演奏効果のようにすら感じます。

結果どこかコミカルな雰囲気を曲全体が帯びていて、かなり暗いはずなのになぜか聴いていて気持ちが良いという状況がずっと続く感じでした。

激しい部分になるとピアノに覆いかぶさるようになり、直上から照らしている明かりが黒髪に当たり会場に乱反射。

さすがに計算ではないと思うんですけど、真っ暗な会場に蝋燭が揺らめくような独特の効果が出ていました。

この曲は事前に楽譜をみてみたんですけど、けっこう指が広がらないと弾けなさそうなところが多く、どうやっているんだろうとすら思ったのですが、プレトークによると指は10度届くらしく、余裕があります。

私は9度が怪しいですから随分大きいですよね。

父親譲りで手も足も大きいく、日本で買い物をすると靴のサイズが無いのだそうです。

プレトークでは「テクニック」の定義について触れていて、難しい曲を弾くことでは無くて自分の思った音色を出すことができる技術こそが本当のテクニックだと思う、とのこと。

そういう意味で「テクニック的にチャレンジング」な曲であると語っていました。

プログラムでは、ヨーロッパではリストはテクニカルで内容が無いと思われている、が実際はそうではなく内容を引きだしたい、と言及。

私の聴いてきた感覚からいっても、リストは余裕を持って弾ける人が弾くとまったく様相を変える印象があります。

コンクールがあることなどにもよって「技術」レヴェルが向上した現代こそリストの時代なのかもしれません。

冴え冴えとしたリズムとパッション。余裕があるゆえに疲れをみせずクオリティが常に安定しています。

懐かしかったり、華やかだったり、激しかったりしながらも全編ダークな色調。

しかしやはりなぜか心地よくて終わるのが惜しいくらい。

まったく正反対なのに意外とグリーグと共通する印象を持ちました。

アンコールでは

グリーグ:《ペールギュント》第一組曲から"山の魔王の宮殿にて"

を鋭いリズムと勢いで弾き切っておしまい。
この前進力はすごいですね!

演奏会後はサイン会に長蛇の列。会場いっぱいに蛇のようにうねっていて最後尾がみえません。

ここでアンコールも聴くや聴かずで外に出たり、拍手をせずに会場を飛び出していた人が多かった理由がわかりました。早く並べるんですね。しかし拍手をしないと早く並べるというのは悲しい矛盾です。何とかならないのかなぁ。

私もせっかくだからサインをもらってきましたよ!感想を言ったら「ありがとぅ~」と笑ってくれました!

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